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養老の滝

むかし、美濃の国の山あいに、若い木こりが住んでおりました。

木こりには年老いたお父さんがいます。お父さんは足が悪くて歩けません。木こりは毎日、お父さんの世話をしてから山へ出かけます。

「お父さん、今日もいい天気ですよ。窓を開けておきますからね」

お父さんはお酒が好きでした。けれど、木こりの稼ぎではなかなかお酒を買えません。

「お父さんにお酒を飲ませてあげたいなあ」

木こりは山で薪を割りながら、いつもそう思っていました。斧を振るたびに、木の香りがぱっと広がります。汗を拭いて、空を見上げて、また斧を振り下ろす。木こりの毎日はそんなふうに過ぎていきます。

ある秋の日のこと。いつもより山の奥へ入っていくと、聞いたことのない水の音が聞こえてきました。ちょろちょろ、ちょろちょろ。清らかで澄んだ音です。

音をたどっていくと、岩のあいだから透き通った水が湧き出していました。小さな滝になって、苔むした岩を伝い落ちています。

ふわり。甘い香りが漂ってきました。

木こりが両手で水をすくって口に含むと、それはお酒でした。ほんのりと甘くて、体がじわっと温かくなります。

「こんな不思議なことがあるものか」

木こりは持っていたひょうたんにお酒を汲んで、大急ぎで家に帰りました。

「お父さん、飲んでみてください」

お父さんがひとくち飲んで、目を丸くしました。

「おお、これはうまいお酒だ。体がぽかぽかしてくる」

お父さんの顔に、ぱあっと赤みがさして、にこにこと笑います。木こりはそれを見て、胸がじいんと温かくなりました。

それから木こりは毎日、山の滝へお酒を汲みに行きました。お父さんは日に日に元気になって、顔色もよくなっていきます。

この話はやがて、都のお殿様の耳に届きました。お殿様は自ら山を訪ねて、不思議な滝を見に来ました。

滝の水を口にしたお殿様は、しばらく黙って味わいました。

「これは、おまえの親を思う気持ちが、天に届いたのだろう」

お殿様はこの滝を「養老の滝」と名づけ、木こりの孝行を国じゅうに伝えました。

その夜、木こりとお父さんは縁側に並んで座って、ちびちびとお酒を飲みました。秋の虫がりんりんと鳴いて、空には天の川が白く流れています。

お父さんがぽつりと言いました。

「おまえがいてくれて、よかったなあ」

木こりは何も言わずに、お父さんの肩にそっと寄り添いました。山の向こうから、風がさわりと吹いて、すすきの穂がさらさらと揺れています。