むかし、あるところに、お母さんやぎと七ひきのこやぎが暮らしていました。
ある日、お母さんやぎが買い物に出かけることになりました。
「いいかい。お母さんが帰るまで、誰が来ても扉を開けちゃいけないよ。おおかみが来るかもしれないからね」
「はあい」
七ひきのこやぎは元気よく返事をしました。お母さんやぎは安心して出かけていきます。
しばらくすると、扉をトントンと叩く音がしました。
「開けておくれ、お母さんだよ」
でも声がガラガラです。こやぎたちは首を振りました。
「お母さんの声じゃない。おおかみだ」
おおかみは引き下がりました。そして、はちみつをなめて声をやわらかくして、また来ました。
「開けておくれ、お母さんだよ」
今度は声がやさしい。でも、窓の下に見えている足が真っ黒です。
「お母さんの足じゃない。お母さんの足は白いもの」
おおかみはまた引き下がりました。粉屋に行って、足に白い粉をまぶしてきます。
「開けておくれ、お母さんだよ」
やさしい声。白い足。こやぎたちはお母さんだと思って、扉を開けてしまいました。
入ってきたのはおおかみです。こやぎたちは慌てて隠れました。一匹はテーブルの下に、一匹はベッドの中に、一匹は戸棚の中に。あちこちに散り散りになって身を隠します。
おおかみは次々にこやぎを見つけて、ぱくぱくと丸呑みにしてしまいました。でも一番小さなこやぎだけは、大時計の中に隠れて見つかりません。
おなかがいっぱいになったおおかみは、裏の野原に出て、大きな木の下でごろりと横になりました。ぐうぐうといびきをかいて眠り始めます。
やがてお母さんやぎが帰ってきました。扉が開いたままです。家の中はめちゃくちゃ。こやぎたちの姿がありません。
「みんな、どこにいるの」
大時計の中から、一番小さなこやぎが出てきました。
「お母さん、おおかみが来て、みんな食べられちゃったの」
お母さんやぎは泣きそうになりましたが、ぐっとこらえました。末っ子の手をとって、裏の野原へ行きます。
おおかみが大きな木の下で眠っています。おなかがぱんぱんにふくれて、中で何かがもぞもぞ動いているのが見えました。
お母さんやぎはそっとはさみを取り出して、おおかみのおなかをちょきちょきと切りました。
すると中から、こやぎたちが一匹ずつ飛び出してきます。丸呑みにされたので、みんな元気いっぱいです。
「お母さん」
こやぎたちがお母さんやぎに飛びつきます。お母さんやぎは七ひきをぎゅっと抱きしめました。
「よかった。みんな無事で」
こやぎたちは川原から大きな石を拾ってきて、おおかみのおなかに詰めました。お母さんやぎが縫い合わせると、おおかみはまだぐうぐうと眠ったままです。
やがて目を覚ましたおおかみは、のどが渇いて井戸に水を飲みに行きました。ところがおなかの石が重くて、ぐらりとよろけて井戸に落ちてしまいます。
「ざぶーん」
おおかみは水の中でびっくりして、二度とこやぎたちを食べようとは思わなくなりました。ずぶ濡れのまま、遠い山の向こうへ逃げていったのです。
こやぎたちは大喜びで踊りました。一匹がくるくる回ると、みんなもくるくる。庭じゅうがにぎやかです。
お母さんやぎは夕ごはんにあたたかいスープを作りました。七つのお椀が並んで、湯気がほわほわと立ちのぼります。みんなで一緒に食べるスープは、とびきりおいしい味がしました。
夜になって、こやぎたちはお母さんやぎのまわりに集まって眠ります。暖炉の火がぱちぱちと燃えて、オレンジ色の光がみんなの顔をやさしく照らしていました。窓の外では月がのぼって、野原に静かな銀色の光を注いでいます。