夏の夜。庭にシートを敷いて、寝転がりました。
昼間の暑さが残っていて、シートがほんのりとあたたかい。草の匂いがします。どこかで鈴虫がりんりんと鳴いていました。
見上げると、空いっぱいに星が広がっています。
大きな星は白く光って、小さな星は青っぽくまたたいています。目が慣れてくると、最初は見えなかった小さな星が次々と現れて、空がどんどんにぎやかになっていきました。
あれは北斗七星。ひしゃくの形をした七つの星。お水をすくうおたまに似ています。ひしゃくの先をまっすぐ伸ばしていくと、北極星がぽつんと光っていました。昔の旅人は、あの星を頼りに歩いたのだそうです。
天の川がうっすらと見えました。空を横切る白い帯。昔の人はあれを川だと思って、七夕の夜に橋がかかると信じていたのです。
風がそよりと吹きました。庭のひまわりが暗闇の中でかすかに揺れています。昼間は太陽に向かって咲いていたひまわりも、夜はすこし首を垂れて、休んでいるようでした。
すうっと光の線が走りました。流れ星です。ほんの一瞬、空にきらりと線を引いて、消えていきます。
またひとつ。すうっ。
今夜は流れ星の多い夜です。空のあちこちで、小さな光がすうっと流れていきます。
蛍がひとつ、ふわりと飛んできました。ぽわっと光って、すうっと消えて、また光る。庭の向こうの暗がりを、やわらかい光が漂っていきます。
お母さんが冷たいお茶を持ってきてくれました。ガラスのコップに氷がからんと鳴ります。
「きれいだね」
お母さんも隣に寝転がりました。ふたりで黙って空を見ます。
こおろぎの声がりりりと響いています。遠くの山のほうから、かすかに風が運んできた松の匂いがしました。
お母さんが言いました。
「あの星の光はね、何百年も前に出発した光なんだよ。今見ている光は、ずうっとむかしの光。星が光を放って、それが何百年もかけて地球まで届くの」
何百年も前の光。むかしの人も、同じ星を見ていたのかもしれない。お侍さんや、お姫さまや、遠い国の船乗りも。そう思うと、不思議な気持ちになります。星の光が何百年もかけて届くなら、今ここで見ている光を、ずっと未来の子どもたちも見るのかもしれない。
風が止んで、空気が静かになりました。虫の声だけが、やさしいリズムで続いています。星の光が降り注いで、庭じゅうがうっすらと青白く光っていました。
まぶたがすこし重くなってきました。星を見ているのだか、夢を見ているのだか、だんだんわからなくなっていきます。星の光がゆらゆらと揺れて、虫の声がとおくなって、風がほおをそっとなでていきました。