むかし、あるところに、兄と弟が住んでおりました。
兄はお金持ちで、大きな蔵をいくつも持っています。弟は貧しくて、小さな家にひとりで暮らしていました。
年の暮れのこと。弟はおせちの材料を買うお金もありません。兄のところへお願いに行きましたが、兄はそっけなく言いました。
「うちだって年末で忙しいんだ。自分でなんとかしなさい」
弟はしょんぼりと帰っていきます。とぼとぼと山道を歩いていると、白いひげのおじいさんに出会いました。
「どうしたね。元気がないようだが」
弟が事情を話すと、おじいさんはにこりと笑って、小さな石臼を差し出しました。手のひらにのるくらいの、かわいらしい臼です。
「これは不思議な臼だよ。右に回して欲しいものを言えば出てくる。止めたいときは左に回すんだ」
弟はお礼を言って、石臼を持ち帰りました。
「お米、出ておくれ」
臼を右に回すと、さらさらと白いお米が出てきました。
「お餅、出ておくれ」
ぽんぽんと白いお餅が出てきます。お魚も、昆布巻きも、黒豆も。おせちの材料がどんどん出てきて、弟は嬉しくて涙がこぼれました。
弟は近所の人たちにも分けてあげました。村じゅうが温かいお正月を迎えることができたのです。
この話を聞きつけた兄が、弟のところにやってきました。
「その臼を譲ってくれ」
兄はお金を積んで、無理やり石臼を持っていきました。
兄は石臼を持って、舟で海に出ました。塩は高く売れるので、塩を出そうとしたのです。
「塩、出ろ」
右に回すと、さらさらと塩が出てきます。
「よし、もっと出ろ。もっとだ」
塩はどんどん出てきます。ところが、兄は止め方を聞いていませんでした。左に回すことを知らないのです。
「止まれ。止まってくれ」
塩はますます出てきます。舟の上に山のように積み上がって、とうとう舟が沈み始めました。兄は慌てて海に飛び込んで、近くの岩にしがみつきます。
舟は塩と一緒にぶくぶくと沈んでいきました。石臼も海の底に沈んでしまいます。
兄はずぶぬれで弟のところに帰ってきました。
「すまなかった。おまえの臼を沈めてしまった」
弟はにっこり笑って、温かい着物を差し出しました。
「いいよ。兄さんが無事でよかった」
海の底では、石臼が今もくるくると回り続けています。だから海の水は辛いのだと、人々は言いました。
兄と弟は、それからは仲良く暮らしました。冬の夜、ふたりで並んで海を眺めます。波が寄せて返す音が、ざぶん、ざぶんと静かに響いていました。
月の光が海の上にきらきらと散って、水平線の向こうまで銀色の道をつくっています。