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oyasumi.baby よみきかせ時間目安:6分

みにくいアヒルの子

春の朝のことです。

湖のほとりに、アヒルのお母さんが巣を作っていました。藁をていねいに敷いて、卵をそっと温めています。

やがて、殻にひびが入りました。

パリッ。パリパリッ。

黄色いひなが、次々と生まれてきます。まあるい目で、きょろきょろとあたりを見回しています。

「いらっしゃい。かわいい子たち」

お母さんアヒルは、一羽一羽を羽の下にそっと抱き寄せました。ひなたちはぴいぴいと鳴いて、お母さんの温かさにすりよっていきます。

けれど、一番大きな卵だけが、まだ割れません。

お母さんアヒルは辛抱強く温め続けました。一日、二日。ほかのひなたちが水辺で遊び始めても、お母さんは巣を離れません。

三日目の朝、とうとうその卵にもひびが入りました。

ガシャッ。

出てきたひなは、ほかの兄弟たちとずいぶん違っていました。体が大きくて、羽は灰色で、くちばしの形も少し違います。

お母さんアヒルは、少しだけ首をかしげました。けれどすぐに、そのひなをやさしく羽の中に包みます。

「おいで。あなたも、わたしの大事な子よ」

灰色のひなは、お母さんの温かい羽毛にすりよりました。とくとくとくと、お母さんの心臓の音が聞こえます。

次の日、みんなで湖に出かけました。黄色いひなたちがぱちゃぱちゃと泳いでいきます。灰色のひなも、そのあとをついていきました。

水面がきらきらと光っています。空は青くて、やわらかな風が吹いていました。

けれど、ほかのアヒルたちが灰色のひなを見て言いました。

「あの子、ちょっと変ね」

「色が違うわ。あんな灰色のアヒル、見たことがない」

灰色のひなは、その声が聞こえていました。胸がきゅっと痛くなります。水面に映った自分の姿を見つめて、うつむきました。

お母さんアヒルが静かに寄り添ってきて、羽でそっと包んでくれました。

「気にしなくていいのよ。あなたはあなたのままで、すてきなの」

灰色のひなは、毎日がんばって泳ぎの練習をしました。何度も何度も、水をかきます。最初はうまくいきませんでしたが、少しずつ、少しずつ上手になっていきました。

すると不思議なことに、灰色のひなの泳ぎ方は、ほかの誰よりもなめらかで美しいのです。水の上をすうっと滑るように進んでいきます。

兄弟たちが目を丸くしました。

「きみ、すごいね。泳ぐのがとっても上手だ」

灰色のひなは、初めて嬉しくて胸が温かくなりました。

夏が過ぎ、秋が来ました。木の葉が赤や黄色に色づいて、湖の上にひらひらと舞い落ちてきます。

灰色のひなの体は、日に日に大きくなっていきました。そして羽の色が、少しずつ変わり始めたのです。灰色だった羽が、だんだんと白くなっていきます。

ある秋の朝、湖面をのぞき込みました。

水鏡に映っていたのは、長い首と、雪のように白い羽。すらりとした美しい姿です。

白鳥でした。

灰色のひなは、白鳥だったのです。

お母さんアヒルが静かに泳いできて、そっと寄り添いました。

「まあ、きれい。あなたは最初から、こんなに美しかったのね」

白鳥になった子は、お母さんの顔を見つめて言いました。

「お母さん。ぼく、きれいになれたから嬉しいんじゃないよ。お母さんがずっと、ぼくのことを大事だって言ってくれた。それが一番うれしかったんだ」

お母さんアヒルの目に、涙がきらりと光りました。

ふたりは並んで湖を泳いでいきます。秋の涼しい風が吹いて、水面がきらきらと揺れていました。

遠くの山が夕日に染まっています。空がだんだんと茜色に変わっていきました。

白い白鳥と、その母親。並んで泳ぐ二羽の姿を、秋の夕日がやさしく照らしていました。