むかし、雪深い村に、よへいという若者が住んでおりました。
ある冬の夕暮れ、よへいが雪道を歩いていると、一羽の鶴が罠にかかっているのを見つけました。白い羽が雪に沈んで、鶴はばたばたともがいています。
「かわいそうに。じっとしていなさい」
よへいはそっと罠を外してやりました。鶴は大きな翼を広げて、空へ飛んでいきます。夕焼けの空に白い姿がすうっと溶けていくのを、よへいはいつまでも見送りました。
その夜のことです。雪がしんしんと降る中、家の戸を叩く音がしました。
トントン。
戸を開けると、若い娘が立っています。雪をかぶった髪が白く光って、頬がうっすらと赤く染まっていました。
「道に迷いました。一晩泊めていただけませんか」
「さあ、お入り。囲炉裏のそばへどうぞ」
娘は「つう」と名乗りました。つうは料理が上手で、働き者で、よへいの暮らしはたちまち明るくなりました。ふたりはやがて夫婦になりました。
ある日、つうが言いました。
「わたしに機を織らせてください。けれど、織っているあいだは決して覗かないでくださいね」
つうは奥の部屋に入って、戸を閉めました。トントンカラリ、トントンカラリ。機を織る音が静かに響きます。
三日三晩、つうは部屋から出てきませんでした。機の音だけが聞こえています。
やがて戸が開いて、つうが出てきました。少しやつれた顔で、手には一反の布を持っています。
その布は息をのむほど美しいものでした。雪のように白く、月の光のようにやわらかく、見る角度によって銀色にきらめきます。
「これを町で売ってください」
布はたいそうな値で売れました。よへいの暮らしは楽になっていきます。
「つう、もう一反織ってくれないか」
つうは静かにうなずいて、また部屋にこもりました。トントンカラリ、トントンカラリ。
よへいは気になって仕方ありません。つうが出てくるたびに、やつれていくような気がするのです。
三度目に布を織り始めた夜。よへいはとうとう我慢できなくなりました。
そっと部屋の前に行って、ほんの少し戸を開けます。
中にいたのは、一羽の鶴でした。自分の羽を一本一本抜いて、布に織り込んでいるのです。だから布はあんなに美しかったのです。
鶴がこちらを振り向きました。
「見てしまいましたね」
鶴はみるみるつうの姿に戻りました。目には涙が光っています。
「わたしは、あの日助けていただいた鶴です。恩返しがしたくて参りました。けれど、姿を見られてしまった以上、もうここにはいられません」
よへいは手を伸ばしました。
「行かないでくれ。布なんかいらない。つうがいてくれればそれでいいんだ」
つうはそっと微笑みました。涙が頬を伝います。
「ありがとう。あなたのそばで過ごした日々は、わたしの宝物です」
つうは窓を開けて、空へと飛び立ちました。白い翼が月の光に照らされて、銀色にきらめきます。
よへいはいつまでも空を見上げていました。雪がしんしんと降り続けて、白い羽のようにやさしく頬に触れていきます。
遠くの空で、鶴の声がひとつ、澄んだ冬の夜に響きました。