むかし、あるところに、たのきゅうという旅役者がおりました。
たのきゅうは芝居が上手で、どんな役でもこなします。村から村へ旅をしながら、お芝居を見せて暮らしていました。
ある日のこと。山道を歩いていると、日が暮れてしまいました。あたりは真っ暗です。
「困ったなあ。どこかに泊まるところはないかな」
すると、山の奥にぽつんと灯りが見えました。近づいてみると、大きな屋敷です。
「もしもし、一晩泊めていただけませんか」
戸が開いて、にこにこした顔のおじさんが出てきました。
「さあさあ、お入り。ちょうど退屈していたところだ」
おじさんはごちそうをたくさん用意してくれて、たのきゅうをもてなしてくれました。お酒も出てきて、ふたりで楽しく飲みます。
「おまえさんは何をしている人だい」
「旅役者でございます」
「おお、それは楽しそうだ。ひとつ芝居を見せてくれないか」
たのきゅうは得意の踊りを披露しました。扇子を使って、鳥になったり花になったり。おじさんは手を叩いて大喜びです。
お酒が進んで、おじさんの顔がだんだん赤くなってきます。そしてぽろりと言いました。
「実はな、わしは人間ではないんだ。この山に住む大蛇なのだよ」
たのきゅうはぎくりとしましたが、さすがは役者です。顔色ひとつ変えずに笑いました。
「それはそれは。大蛇さまに気に入っていただけて光栄です」
大蛇はすっかり上機嫌になって、さらにぽろぽろと秘密を話し始めます。
「わしにも怖いものがあるんだよ。それはな、にわとりの鳴き声だ。あの声を聞くと、力が抜けてしまうのだ」
たのきゅうは心の中でしっかり覚えておきました。
次の朝、たのきゅうは丁寧にお礼を言って屋敷を出ました。そして麓の村に降りると、村の人たちに話を聞きました。
「あの山の大蛇が暴れて、畑を荒らすので困っているんです」
たのきゅうは村の人たちと相談して、にわとりをたくさん集めました。そして山に向かって、一斉ににわとりを放します。
コケコッコー。コケコッコー。
にわとりたちが元気よく鳴きました。すると山が揺れて、大蛇がするすると姿を現します。にわとりの声を聞いた大蛇は、力が抜けてぐったりとなりました。
「まいった、まいった。もう暴れないから許してくれ」
大蛇はそう言って、山の奥深くへ帰っていきました。それからは畑を荒らすこともなくなったのです。
村の人たちはたのきゅうにお礼をたくさんくれましたが、たのきゅうはにこにこと手を振って、また旅に出ていきました。
「さて、次はどこの村でお芝居をしようかな」
夕暮れの道を、たのきゅうはのんびりと歩いていきます。茜色の空に、とんびがゆうゆうと輪を描いていました。遠くの山から、風がさわりと吹いてきます。