夏の夜のことです。
お日さまがゆっくりと山のむこうに沈んで、空が藍色に変わっていきました。
星が一つ、またひとつと灯り始めます。今夜はいつもより、たくさんの星が出ているようです。
草むらからは虫の声が聞こえてきました。チリリリ、チリリリ。涼しい風が、頬をそっとなでていきます。
すると、不思議なことが起こりました。
星の光から、白いわたげのようなものが、ふわりと落ちてきたのです。
たんぽぽの綿毛よりも軽くて、蛍の光よりもやわらかい。空からひらり、ひらりと降りてきます。
ほしのわたげです。
手のひらを広げてみました。わたげが一つ、そっと降りてきて、指先にふわりと乗りました。
冷たくもなく、熱くもなく、ただやさしい温もりがあります。まるで誰かの吐息のように、ほんのりと温かい。
わたげはほのかに光っていました。てのひらの上で、淡い金色の光がゆらゆらと揺れています。
見つめていると、ふっと光の粒になって、夜の空気にとけていきました。
空を見上げると、わたげは次から次へと降ってきます。
ひらり。ひらり。ひらり。
髪の上にそっと降りてきたり、肩の上にふわりと積もったり、頬をやさしくくすぐったり。
あたり一面に、光るわたげが静かに舞っていました。夏の夜なのに、まるで雪が降っているようです。ただし、この雪はどこまでもあたたかい。
星たちがささやいているように聞こえました。
大丈夫だよ。
今夜もちゃんと見守っているよ。
安心して、おやすみ。
光のわたげに包まれていると、体がだんだんと軽くなっていきます。地面から少しだけ浮かび上がるような、不思議な心地よさです。
自分もわたげの一つになったような気がしました。ふわり、ふわりと、夜空をただよっています。
見おろすと、町の灯りがぽつぽつと見えます。遠くで川が光っています。山の稜線が、星の光にうっすらと浮かんでいます。
やがてわたげはゆっくりと降り積もって、やわらかな光の布団のようになりました。
その中にくるまると、どこまでも温かくて、どこまでもやわらかい。
虫の声が遠くなっていきます。星の光がやさしくまたたいています。
ほしのわたげは、朝が来るまでずっと、やさしく降り続けているのです。