むかし、ある国に、雪のように白い肌の美しいお姫さまがおりました。白雪姫という名前です。
白雪姫のお母さんは早くに亡くなり、やがてお城に新しいお妃さまがやってきました。お妃さまはとても美しい人ですが、世界でいちばん美しいのは自分だと信じています。
お妃さまは毎日、魔法の鏡に問いかけました。
「鏡よ鏡、この世でいちばん美しいのはだあれ」
「それはお妃さま、あなたでございます」
鏡はいつもそう答えていました。けれど、白雪姫が大きくなったある日、鏡の答えが変わったのです。
「いちばん美しいのは白雪姫でございます」
お妃さまは悔しくてたまりません。白雪姫を城から追い出してしまいました。
白雪姫はひとりぼっちで、深い森の中をさまよいます。木の根につまずき、枝に服を引っかけ、泣きそうになりながら歩きました。
やがて、木の間から小さな家が見えてきました。可愛らしい赤い屋根の家です。窓辺に花が咲いていて、煙突から薄い煙が立ちのぼっています。
戸を開けると、中には小さなテーブルに小さな椅子が七つ。小さなベッドが七つ。何もかもが、ちいさい。
白雪姫はくたくたに疲れていて、ベッドに横になると、そのまま眠ってしまいました。
「おや、誰か寝ているぞ」
夕方になって帰ってきたのは、七人の小人たちでした。山で宝石を掘る仕事をしています。赤い帽子をかぶった小さな人たちが、白雪姫をぐるりと囲んで覗き込みました。
白雪姫が目を覚まして事情を話すと、小人たちは口をそろえて言いました。
「ここにいなさい。わしらが守ってあげるから」
白雪姫は小人たちと一緒に暮らすことになりました。朝、小人たちが出かけると、白雪姫は家のそうじをして、花に水をやり、夕ごはんの支度をします。
スープを作ると、いい匂いが家じゅうに広がりました。焼きたてのパンのかけらを、小鳥たちにも分けてあげます。
夕方になると、小人たちが歌いながら帰ってきます。ハイホー、ハイホーと元気のいい声が遠くから聞こえてくると、白雪姫は窓から手を振りました。
夜は暖炉の前で、小人たちが宝石の話をしてくれます。赤いルビーが見つかった日のこと、青いサファイアが光っていたこと。白雪姫は目を輝かせて聞きました。
穏やかな日々が続きましたが、お妃さまは魔法の鏡で白雪姫が森にいることを知ってしまいました。
お妃さまはおばあさんに変装して、森の家を訪ねます。手には真っ赤なりんごを持っていました。
「かわいいお嬢さん。りんごをひとつあげましょう」
小人たちには「知らない人に気をつけなさい」と言われていましたが、りんごはとてもおいしそうで、白雪姫はつい受け取ってしまいました。
ひとくちかじると、急に目の前がぼんやりとしてきます。そのまま、白雪姫はすうっと深い眠りに落ちてしまいました。
白雪姫と小人たちは楽しく暮らしていました。朝は一緒にパンを焼いて、バターとはちみつを塗って食べます。小人たちが仕事に出かけると、白雪姫は掃除をして、お花を摘んで花瓶に飾りました。夕方になると小人たちが帰ってきて、みんなでスープを囲みます。あたたかい湯気がほわほわと立ちのぼって、笑い声が家じゅうに響きました。
けれどお妃さまは、三度目にやってきました。今度はおばあさんに化けて、毒のりんごを持っています。赤くてつやつやした、おいしそうなりんごです。
「おじょうさん、おいしいりんごだよ。ひと口おあがり」
白雪姫がりんごをかじると、そのまま倒れてしまいました。
小人たちが帰ってきて、眠った白雪姫を見つけました。
「白雪姫。白雪姫、起きておくれ」
どんなに呼んでも、目を覚ましません。小人たちは泣きながら、ガラスの棺を作って白雪姫を寝かせました。森の花をたくさん飾って、毎日そばで見守ります。
白雪姫の頬はうっすらと赤く、まるでただ眠っているだけのようでした。
ある日、旅をしている王子さまが通りかかりました。ガラスの棺の中で眠る白雪姫を見て、その美しさに心を打たれます。
「どうかこの姫をわたしの城で看させてください」
家来が棺を運ぼうとした拍子に、棺が揺れました。白雪姫の口から、りんごのかけらがぽろりとこぼれ落ちます。
白雪姫がうっすらと目を開きました。
「ここは、どこ」
小人たちが歓声をあげます。
「起きた。白雪姫が起きたぞ」
白雪姫は起き上がって、小人たちの顔を見回しました。みんなが泣いたり笑ったりしています。白雪姫もにっこりと微笑みました。
王子さまは白雪姫に手を差し伸べました。やさしい目をした、穏やかな人です。
「お城で一緒に暮らしませんか。小人たちも、みんなで」
七人の小人たちは顔を見合わせて、にかっと笑いました。
お妃さまは、鏡に映った自分の顔を見て、ため息をつきました。美しさを競うことに疲れたのです。鏡をそっと布で覆って、もう二度と聞くことはありませんでした。
森の木々がさわさわと揺れています。小人たちの歌声が、夕暮れの空に遠く響いていました。白雪姫は窓辺に座って、森のほうを眺めます。あの小さな家の赤い屋根が、木の間からちらりと見えたような気がしました。
月が昇って、森がやさしい銀色の光に包まれていきます。