夜が降りてきました。
小さな駅のホームに、一台の夜行列車がとまっています。窓から黄色い温かな光がこぼれて、ホームの雪をやわらかく照らしていました。
プシューッ。蒸気がふわりと立ちのぼります。
乗務員さんが扉のそばに立って、にこりと笑いました。
「いらっしゃいませ。どうぞ、お乗りください」
あなたは切符をぎゅっと握って、列車に乗り込みます。
車内はぬくぬくと温かくて、ほんのりと木の香りがしました。座席は深くてやわらかくて、座ると体がすっぽりと包まれます。
窓際の席に座りました。窓の向こうには、一面の雪景色が広がっています。
しばらくして、列車がゆっくりと動き始めました。
ゴトン、ゴトン。ゴトン、ゴトン。
レールの継ぎ目を越える音が、静かに響きます。規則正しくて、やさしいリズムです。
窓の外を、雪に覆われた木々が静かに流れていきます。枝という枝に白い雪が積もって、まるで白い珊瑚のようです。
遠くのほうに、小さな家の灯りがぽつんと見えました。あの家の中でも誰かが温かくしているのでしょう。灯りはゆっくりと後ろに流れて、やがて闇に溶けていきます。
ゴトン、ゴトン。ゴトン、ゴトン。
列車は雪国の夜を走り続けます。
窓ガラスに、雪の結晶がひとつ、ふたつと付きました。溶けて小さな水の粒になって、つうっと流れ落ちていきます。
その窓を眺めていると、だんだん自分も雪の一粒になったような気がしてきました。ふわりと宙を舞って、しんしんと降り積もる雪。冷たそうに見えて、触ると不思議にあたたかい雪です。
隣の座席では、年配の方がもう穏やかに眠っています。その向かいでは、女の人が本を開いたまま、そっと目を閉じていました。
車内のあちこちから、かすかな寝息が聞こえてきます。みんな同じ列車に揺られて、同じ雪の夜を過ごしているのです。
そう思うと、なんだかとても安心しました。
乗務員さんが、足音を忍ばせて通りかかりました。
「温かいお茶をお持ちしましょうか」
やさしい声です。差し出された湯呑みから、ほうじ茶のやわらかな香りが立ちのぼりました。両手で包むと、指先にじんわりと温もりが伝わってきます。
ひとくち飲むと、体の真ん中がほわっと温かくなりました。
ゴトン、ゴトン。ゴトン、ゴトン。
列車のリズムは変わりません。やさしく、たしかに、続いていきます。
客車の天井に、ほのかなランプが灯っています。オレンジ色の光が壁をやわらかく照らして、車内はどこかお部屋のようです。
窓の外は、どこまでも白い世界が続いています。雪が降って、降って、降り続けています。
座席のぬくもりに体を預けていると、まぶたがだんだんと重くなってきました。
列車がトンネルに入りました。ゴオオオ、という低い音が車体を包みます。窓の外が真っ暗になって、車内のランプの光がいっそうやさしく感じられました。
トンネルを抜けると、また一面の雪景色です。さっきよりも雪が深くなっているようでした。木々の枝が、雪の重みでそっとおじぎをしています。
どこかの車両から、赤ちゃんの小さな寝息が聞こえてきました。その子も、同じようにこの列車に揺られて眠ろうとしているのでしょう。
毛布をそっと肩までひきあげました。毛布の中はぽかぽかです。列車のリズムが、体の奥までやさしく響いてきます。
ゴトン、ゴトン。ゴトン、ゴトン。
列車はどこまでも走り続けます。雪国の夜を、ゆっくりと、やさしく。
白い世界に抱かれて、温かなリズムに揺られて。
列車はいつまでも、いつまでも走り続けるのです。