むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでおりました。
おじいさんはある日、けがをした小さなすずめを見つけました。羽を怪我して、飛べなくなっています。
「かわいそうに。うちで手当てしてやろう」
おじいさんはすずめを家に連れて帰り、やさしく羽に薬を塗ってやりました。毎日ごはんつぶをあげて、水を替えてやります。
すずめはチュンチュンとうれしそうに鳴きました。おじいさんはこのすずめに「おちょん」と名前をつけて、大切にかわいがりました。
けれど、おばあさんはすずめが気に入りません。
「鳥なんて汚いよ。早く逃がしておくれ」
ある日、おばあさんが障子を張り替えるために、のりを作っておきました。ところが目を離した隙に、おちょんがぺろぺろとのりを舐めてしまったのです。
おばあさんはかんかんに怒りました。
「このいたずらすずめ。出ておいき」
おばあさんがぱんぱんと手を叩くと、おちょんは驚いて窓から飛んでいってしまいました。羽はもうすっかり治っていたのです。
おじいさんが帰ってきて、おちょんがいないことに気づきました。
「おちょん。おちょんや」
おじいさんは山を越え、谷を渡り、おちょんを探して歩きました。
歩いて、歩いて、歩いて。やがて竹藪の奥に小さな宿が見えてきました。
「いらっしゃい、おじいさん。お待ちしておりました」
なんとそこにはおちょんがいて、たくさんのすずめたちと一緒に暮らしていたのです。すずめのお宿でした。
すずめたちはおじいさんをもてなしてくれました。炊きたてのごはんに、山菜の煮物。きのこのお吸い物に、栗のきんとん。すずめたちが小さな翼で踊りも見せてくれます。
ひとつひとつの踊りが、風にそよぐ花のようにやわらかでした。
帰り際、おちょんが言いました。
「おじいさん、お土産にこのつづらをどうぞ。大きいのと小さいの、どちらがいいですか」
おじいさんは小さなつづらを選びました。
「わしは年寄りだからね。小さいので十分だよ」
家に帰ってつづらを開けると、中から金や銀やきれいな布がたくさん出てきました。おじいさんは目を丸くして喜びます。
それを見たおばあさんは、自分も欲しくなりました。
「わたしも行ってくる」
おばあさんはすずめのお宿へ行き、大きなつづらをもらって帰ってきました。重たいつづらを背負って、よいしょよいしょと帰ります。
家に着いて、ふたを開けると。中から虫やら蛙やらがわあっと飛び出して、おばあさんはひっくり返ってしまいました。
「きゃあ」
おばあさんは泣きべそをかいています。おじいさんがよしよしとなだめました。
「欲張りすぎたね。でも、わしらにはこの小さなつづらで十分だよ」
おばあさんはこくんとうなずきました。
「そうだね。おちょんにも悪いことをしたね」
次の朝、庭の木の枝に、おちょんがちょこんと止まっていました。チュンチュンとうれしそうに鳴いています。
おばあさんがそっと手を差し出すと、おちょんはためらわずに、その手のひらに降り立ちました。小さな足が、ちょんと温かい。
朝日が縁側に差し込んで、三人を金色に包みます。庭の梅が、ほころび始めていました。