むかし、イタリアの小さな町に、ゼペットじいさんという木彫り職人が暮らしていました。
ゼペットじいさんは腕のいい職人で、動物や人形をたくさん作っています。でも、ひとりぼっちの暮らしは寂しくて、いつも誰かと話したいと思っていました。
ある日、とびきりいい木を手に入れました。すべすべとした手触りで、木目がまるで笑っているように見えます。
「この木で、男の子の人形を作ろう」
ゼペットじいさんは一晩かけて、丁寧に人形を彫りました。ノミでこつこつと形を整えて、やすりで滑らかに磨いていきます。まるい頭、大きな目、小さな口。最後にとがった鼻をちょこんとつけて、できあがりです。
「おまえの名前は、ピノキオだ」
その夜、ゼペットじいさんが眠ったあと、窓から青い光が差し込んできました。星の妖精がやってきたのです。
妖精がピノキオの鼻にそっと触れると、ピノキオの目がぱちりと開きました。手が動いて、足が動いて、すっくと立ち上がります。
「やさしい子になれたら、いつか本当の男の子になれますよ」
妖精はそう言って、星の光とともに消えていきました。
朝になって、ゼペットじいさんは目を丸くしました。
「ピノキオ、おまえ、動いているのかい」
「おはよう、お父さん」
ゼペットじいさんは嬉しくて涙がこぼれました。さっそく教科書を買って、ピノキオを学校に送り出します。
ところがピノキオは遊ぶのが大好きで、学校にまっすぐ行けません。途中で人形劇を見に行ったり、知らないきつねとねこについていったり。
きつねとねこは、ピノキオの金貨を狙っていました。
「この金貨を不思議な畑に埋めると、朝には金貨の木が生えてくるよ」
ピノキオは信じて金貨を埋めましたが、もちろん何も生えてきません。きつねとねこが金貨を持っていってしまったのです。
困ったピノキオのところに、星の妖精が現れました。
「ピノキオ、どうしたの。学校は」
「学校に行ったよ。ちゃんと勉強した」
嘘をついたとたん、ピノキオの鼻がにょきっと伸びました。びっくりして言い訳をすると、もっと伸びます。どんどん伸びて、窓の外まで届きそうです。
「嘘をつくと鼻が伸びるのよ。正直に話してごらんなさい」
ピノキオは恥ずかしくなって、本当のことを話しました。すると鼻がすうっと元に戻ります。
「ごめんなさい。もう嘘はつかない」
けれどピノキオはまた誘惑に負けてしまいます。「おもちゃの国」に行くと聞いて、ロバの引く馬車に飛び乗りました。
おもちゃの国では、毎日遊んで暮らせます。学校も仕事もありません。最初は楽しくて夢中でしたが、遊んでばかりいると、子どもたちの耳がロバの耳に変わっていくのです。
ピノキオの頭にもロバの耳がぴょこんと生えてきました。
「大変だ」
ピノキオは慌てて逃げ出しました。走って走って、海辺にたどり着きます。
そのとき、大きなクジラが海から現れました。口がぱかっと開いて、ピノキオは飲み込まれてしまいます。
クジラのおなかの中は暗くて広い。その奥に、小さな灯りが見えました。
「お父さん」
ゼペットじいさんがいたのです。ピノキオを探して海に出て、クジラに飲み込まれていました。ろうそくの灯りのそばで、じっとピノキオを待っていたのです。
「お父さん、ごめんなさい。迷惑ばかりかけて」
「いいんだよ。会えてうれしい」
ピノキオは火を焚いて煙を出しました。クジラがくしゃみをしたとたん、ふたりは海に放り出されます。ピノキオはゼペットじいさんをおぶって、必死に泳ぎました。
岸に着くと、ゼペットじいさんはぐったりしています。ピノキオは泣きながらおぶって、家まで歩きました。
「お父さん、しっかりして。もう遊んでばかりいない。ぼく、ちゃんとするから」
それからピノキオは変わりました。毎日学校へ行って、家に帰ったらゼペットじいさんの手伝いをします。嘘をつかず、約束を守って、困っている人がいたら助けました。
ある朝、目を覚ましたピノキオは、自分の手を見つめました。木ではない。やわらかい、あたたかい、人間の手です。
「お父さん、ぼく、本当の男の子になったよ」
ゼペットじいさんはピノキオをぎゅっと抱きしめました。うれし涙が頬をつたいます。
窓の外に朝日が差し込んで、工房の木くずがきらきらと舞っています。棚に並んだ人形たちが、みんなにこにこと笑っているように見えました。遠くの教会の鐘がかあんかあんと鳴って、新しい一日が始まります。