野原のはずれに、大きな樫の木が一本立っていました。
太い幹、どっしりとした根。枝は空に向かって力強く伸びています。樫の木は自分の強さが自慢でした。
すぐそばの川べりには、細い葦がたくさん生えています。風が吹くとさらさらと揺れて、右に左にしなります。
樫の木は葦を見下ろして言いました。
「おまえたちは頼りないなあ。風が吹くたびに揺れて、折れてしまいそうだ。わたしを見てみろ。どんな風にもびくともしない」
葦はさらさらと音を立てて、静かに答えました。
「そうかもしれません。でもわたしたちは、風に逆らわないことを知っているのです」
樫の木は鼻で笑いました。
ある秋の夜のことです。遠くから黒い雲がむくむくと広がって、激しい嵐がやってきました。
風がごうごうと吹き荒れます。雨がばらばらと降って、稲妻がピカリと光りました。
樫の木はぐっと踏ん張ります。太い幹をまっすぐに立てて、風に立ち向かいます。枝がぎしぎしと軋みました。
けれど風はますます強くなります。ごうっという音とともに、ひときわ大きな風が吹き付けました。
めきめきめき。
樫の木の太い枝が折れてしまいました。どさりと地面に落ちて、葉っぱが散らばります。
葦たちはどうしていたかというと。風が吹くたびに、さらりと体をしならせていました。右に左に、風の向くままに揺れます。風が通り過ぎると、またすっと元に戻る。
朝が来て、嵐はおさまりました。空が明るくなって、虹がうっすらとかかっています。
樫の木は枝を失って、すこし寂しそうにしていました。葦たちは変わらず、朝の風にさらさらと揺れています。
葦がやさしく言いました。
「樫の木さん。強いことは立派なことです。でも、ときには風に身を任せることも大切なのですよ」
樫の木はしばらく黙っていましたが、やがてゆっくりとうなずきました。折れた枝のあとから、小さな新しい芽がぽつりと顔を出しています。
秋の風がそよりと吹いて、葦がさらさらと歌いました。水面にきらきらと光が踊って、川はどこまでも静かに流れていきます。