むかし、あるところに、ねずみのお父さんとお母さんがおりました。ふたりには、チュウ子という可愛い娘がいます。
チュウ子はとびきり器量よしで、お父さんとお母さんの自慢の娘でした。
「チュウ子には、世界でいちばん偉い方のところへ嫁にやりたい」
お父さんが腕を組んで言いました。
「世界でいちばん偉い方。それは誰だろう」
お父さんは空を見上げました。おひさまが燦々と輝いています。
「おひさま。あなたは世界でいちばん偉い方でしょう。うちのチュウ子をもらってください」
おひさまはにこにこと笑いました。
「わたしよりも偉い者がいますよ。雲さんです。雲さんはわたしの顔を隠してしまうのですから」
お父さんは雲のところへ行きました。
「雲さん。あなたは世界でいちばん偉い方でしょう。うちのチュウ子をもらってください」
雲はふわふわと揺れて答えます。
「わたしよりも偉い者がいますよ。風さんです。風さんはわたしをどこへでも吹き飛ばしてしまうのですから」
お父さんは風のところへ行きました。
「風さん。あなたは世界でいちばん偉い方でしょう」
風はびゅうびゅうと吹きながら答えます。
「わたしよりも偉い者がいますよ。壁さんです。どんなに吹いても、壁さんはびくともしないのですから」
お父さんは壁のところへ行きました。大きくて頑丈な塀です。
「壁さん。あなたこそ世界でいちばん偉い方でしょう」
壁はぼそりと答えました。
「いいえ。わたしよりも偉い者がいますよ。ねずみさんです。ねずみさんはわたしに穴を開けてしまうのですから」
お父さんはぽかんと口を開けました。
「ねずみが、いちばん偉い」
ぐるりと一周して、戻ってきたのです。
お父さんは家に帰って、お母さんに話しました。
「なんだ。いちばん偉いのは、わしらねずみだったよ」
お母さんはくすっと笑いました。
「それなら、チュウ子はねずみのところにお嫁に行くのがいちばんね」
隣に住むチュウ太は、まじめで気のやさしいねずみです。チュウ子とチュウ太は昔から仲良しでした。
チュウ子はほっぺたを赤くして、こくんとうなずきます。
お嫁入りの夜。チュウ子は白い花を頭にさして、チュウ太のところへ歩いていきます。小さなちょうちんの灯りが、ぽつぽつと道を照らしていました。
虫の声がりんりんと響いて、空にはまあるいお月さまが浮かんでいます。
お父さんとお母さんは縁側に並んで座って、ちょうちんの灯りが遠くなっていくのを、いつまでも見守っていました。