むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでおりました。
ある冬の日のこと。おじいさんが山から帰ってくると、庭のすみっこで小さな声が聞こえました。
「はっけよい、のこった」
声のするほうを覗いてみると、二匹のねずみが相撲をとっています。一匹はやせっぽちで、もう一匹はまるまると太っていました。
ぺたん。
やせっぽちのねずみが、すぐにひっくり返されてしまいます。何度やっても、何度やっても、やせっぽちのねずみは勝てません。
けれど、やせっぽちのねずみは何度でも立ち上がります。小さな体を震わせながら、またかまえるのです。
おじいさんは、そのけなげな姿を見て胸がきゅっとなりました。
「かわいそうに。あの子にお餅を食べさせてやったら、力がつくかもしれないねえ」
家に戻って、おばあさんに話すと、おばあさんはにっこり笑いました。
「そうだねえ。お餅をついてやろうかね」
ぺったん、ぺったん。ぺったん、ぺったん。
おばあさんがこねて、おじいさんがつきます。もち米の甘い香りが台所いっぱいに広がりました。つきたてのお餅から、ほかほかと湯気が立ちのぼります。やわらかくて、もちもちして、手にくっつくほどあたたかい。
おばあさんが小さなお餅をちぎって、きなこをまぶしてくれました。
「これならねずみさんも食べやすいだろう」
おじいさんは庭のすみっこに、そのお餅をそっと置いてやりました。
次の朝、お餅はきれいになくなっています。その代わりに、小さな足跡がぽつぽつとついていました。
「食べてくれたんだねえ」
おじいさんは嬉しくなって、次の日も、その次の日もお餅を置いてやりました。
何日か経った、ある晴れた朝のこと。
庭から元気な声が聞こえてきます。
「はっけよい、のこった」
おじいさんが覗いてみると、あのやせっぽちのねずみが、少しふっくらとして、しっかりとした足で踏ん張っています。
がっぷり組み合って、押して、押されて。
「のこった、のこった」
ぐうっと腰を入れて、やせっぽちのねずみが太ったねずみを押し出しました。
「やったあ」
小さな声が響きます。ねずみたちはしっぽをぴんと立てて、嬉しそうにくるくる回りました。
おじいさんは目を細めて、そっと手を叩きました。
おばあさんが縁側にやってきて、一緒にねずみたちを見守ります。
「よかったねえ」
「ああ、よかったねえ」
ふたりは並んで、冬の日だまりの中で笑い合いました。ねずみたちの小さな声が、寒い空気の中をころころと転がっていきます。
屋根の上では、雪がきらきらと光っていました。