砂漠に夜が来ました。
昼間の暑さがうそのように、空気がひんやりと冷えていきます。太陽が沈んだ西の空が、薄い金色からうす紫に変わっていきました。
砂丘のてっぺんに、らくだが一頭座っています。長いまつげの下で、大きな目がゆっくりとまばたきしました。
男の子はらくだの背中にもたれて、空を見上げています。
星が出始めました。最初はひとつ。それから十。それから百。数えきれないほどの星が、次から次へと灯っていきます。
砂漠の星空は、町の夜空とはまるでちがいました。星がこぼれ落ちてきそうなほど近くて、手を伸ばせば掴めそうです。赤い星、青い星、白い星。ひとつひとつがくっきりと輝いて、まるで宝石箱をひっくり返したようでした。
天の川が空を横切っていました。白い光の帯が、はるか遠くまで流れています。星の粒がぎっしりと集まって、まるで光の川が本当に空に流れているようです。
月がのぼってきました。まんまるの月です。砂漠がうっすらと銀色に照らされて、砂丘の稜線がくっきりと浮かび上がりました。
砂の表面がきらきらと光っています。細かい砂の粒ひとつひとつが、月の光を受けて小さな宝石のように輝いているのです。
風がそよりと吹きました。昼間の熱を含んだ砂の匂いがします。砂が音もなく舞い上がって、月の光の中で金色の粉のように光りました。砂丘の形がゆっくりと変わっていきます。砂の流れる音が、さらさらとかすかに聞こえました。
遠くで、ジャッカルの声がしました。ほうーんと、長い声です。その声が砂漠の空に溶けていって、またしんと静かになります。砂丘の向こうから別のジャッカルが答えました。ほうーん。二つの声が夜空にこだまして、やがて風に消えていきます。
らくだがふうっと息をつきました。あたたかい息が白く見えます。男の子はらくだの首をそっと撫でました。毛がごわごわしているけれど、体はあたたかい。
砂漠の夜は静かです。町の音も、車の音も、何も聞こえません。耳を澄ますと、自分の心臓の音がとくとくと聞こえてくるほどです。砂の下からかすかに、虫の鳴く声がしました。砂漠にも小さな生き関わりが息づいているのです。
空を横切るように、流れ星が走りました。銀色の光がすうっと線を引いて、一瞬で消えていきます。またひとつ、またひとつ。今夜は流れ星の多い夜でした。
砂丘と砂丘のあいだに、小さなオアシスがありました。やしの木が何本か立っていて、葉っぱが風にさらさらと揺れています。水面に月が映っていました。まんまるの月がふたつ。ひとつは空に、ひとつは水に。風が吹くと水面が揺れて、月がゆらゆらと踊ります。
水辺にサソリがいました。月の光を受けて、青白く光っています。小さな体が宝石のように透き通って、不思議にきれいでした。
風がやんで、砂漠がしんと静まりました。空の星がますます明るく見えます。流れ星がひとつ、すうっと光の線を引いて消えていきました。
男の子はらくだの背中のぬくもりを感じながら、ゆっくりと目を閉じます。砂のさらさらという音が、どこか遠くで聞こえていました。月の光が毛布のようにやわらかく降り注いで、星たちが静かに瞬いています。