大晦日の夜のことです。
雪が、しんしんと降っていました。
街角に、小さな女の子がひとり立っています。エプロンのポケットに、マッチの束を抱えて。
「マッチはいかがですか」
女の子の声はとても小さくて、行き交う人たちの足音にかき消されてしまいます。みんな、温かい家へ急いでいるのでしょう。誰も足を止めてくれません。
小さな指先は、かじかんで紫色に変わっていました。吐く息が白くなって、すぐに夜の闇に溶けていきます。
やがて通りから人影が消えました。女の子は建物の隅にしゃがみこみます。ぼたん雪が、肩の上に静かに積もっていきました。
「一本だけ。一本だけ、つけてみよう」
かじかんだ指で、マッチを壁にこすりつけました。
シュッ。
小さな炎が、ぽっと灯ります。
すると不思議なことが起きました。炎の向こうに、大きな暖炉が見えるのです。赤い火がぱちぱちと音を立てて、じんわりとした温かさが体を包みます。
「ああ、あったかい」
女の子は両手を炎にかざしました。けれどマッチが燃え尽きると、暖炉はすうっと消えてしまいました。冷たい壁だけが残ります。
もう一本、擦りました。今度はテーブルが現れます。こんがり焼けたがちょうの丸焼きから湯気が立ち、ふくふくとおいしそうな香りが漂ってきます。
「おいしそう」
手を伸ばした瞬間、火が消えました。ごちそうも消えてしまいます。冷たい風が、ひゅうと頬をなでました。
三本目のマッチに手を伸ばします。
シュッ。
今度は美しいクリスマスツリーが現れました。たくさんのろうそくが灯って、きらきらと輝いています。女の子が手を伸ばすと、ろうそくの灯りがふわりと空に昇って、夜空の星になりました。
そのうちの一つが、すうっと長い尾を引いて流れていきます。
「だれかが、天に召されたのね」
女の子はつぶやきました。やさしかったおばあちゃんが、流れ星を見るといつもそう教えてくれたのです。
もう一本、マッチを擦りました。
炎の中に、おばあちゃんの笑顔が浮かんでいました。いつも優しかったおばあちゃん。膝の上に乗せてくれた、あのおばあちゃん。世界でたったひとり、この子を愛してくれた人です。
「おばあちゃん」
おばあちゃんはにっこり笑って、両手を広げています。そのまなざしは、春の陽だまりのように優しくて温かい。
「消えないで。どうか、消えないで。おばあちゃん、わたしも連れていって」
女の子はマッチの束をまとめて、一度に擦りました。ぶわっと大きな炎が上がります。あたりが昼間のように明るくなりました。
おばあちゃんが、今まで見たこともないほど大きく、きれいに輝いています。女の子を抱き上げて、ぎゅっと抱きしめてくれました。
ふたりはやさしい光に包まれて、高く高く昇っていきました。もう寒くありません。おなかも空いていません。悲しいことも、つらいことも、何もかも遠くなっていきます。
元日の朝、街角の建物の隅に、小さな女の子がうずくまっていました。頬がほんのりと赤くて、唇にはかすかな笑みが浮かんでいます。周りには、燃え尽きたマッチの束が散らばっていました。
「温まろうとしたのだね」
通りがかった人がそう言いました。けれど、この子がどんなに美しいものを見たか、おばあちゃんとどんなに幸せに空へ昇っていったか、それは誰にもわかりませんでした。