むかし、あるところに、塩を売る男がおりました。
男は毎日、ろばの背中に塩の袋を載せて、山を越えて町へ売りに行きます。ろばはよたよたと歩いて、重い塩を運んでくれました。
ある日、川を渡るときに、ろばが足をすべらせて水の中に転んでしまいました。
ざぶん。
ろばが立ち上がると、あら不思議。背中の荷物がとても軽くなっています。川の水で塩が溶けてしまったのです。
ろばは覚えました。川に転べば、荷物が軽くなる。
次の日も川を渡るとき、ろばはわざと転びました。ざぶん。塩がまた溶けて、軽くなります。
「しめしめ」
ろばは毎日、川でわざと転ぶようになりました。そのたびに塩が溶けて、男は困ってしまいます。
「これは何とかしなくては」
男は考えて、次の日、塩の代わりに綿を載せました。ふわふわの綿の袋をたっぷりと。
ろばは川に差しかかると、いつものようにわざと転びました。ざぶん。
ところが、今度は立ち上がると、荷物がずっしりと重くなっています。綿が水を吸って、何倍にも膨らんでしまったのです。
ろばは目を白黒させて、よたよたと岸に上がりました。重たい、重たい。足がぷるぷると震えます。
男がぽんぽんとろばの背中を叩きました。
「ずるをすると、かえって大変になるんだよ」
ろばはしょんぼりと耳を垂らしました。それからは川でわざと転ぶことはなくなったのです。
夕方、男はろばの体をきれいに拭いてやって、干し草をたっぷりあげました。ろばはもしゃもしゃと食べながら、少し申し訳なさそうに男を見つめます。男はくすっと笑って、ろばの鼻先をなでてやりました。
夕焼けが小屋の中にやわらかく差し込んでいます。ろばのたてがみが金色に光って、干し草の匂いがほんのりと漂っていました。