むかし、あるところに、おじいさんと男の子がおりました。ふたりは一頭のろばを連れて、町の市場へ売りに行くことにしました。
朝早く出発して、ろばの手綱を引きながら歩いていきます。道には秋の花が咲いて、空は高く澄んでいました。
しばらく歩いていると、道ばたのおばさんが声をかけてきました。
「まあ、ろばがいるのに歩いているの。もったいない。子どもを乗せてやりなさいよ」
おじいさんはうなずいて、男の子をろばに乗せました。男の子はろばの背中でゆらゆらと揺られます。
次に通りかかったおじさんが言いました。
「やれやれ。子どもがろばに乗って、年寄りが歩いているのか。年寄りのほうを乗せるべきだろう」
おじいさんは男の子を降ろして、自分がろばに乗りました。
すると今度は、井戸端で話をしていたおばあさんたちが言います。
「子どもを歩かせるなんて。ふたりとも乗ればいいのに」
おじいさんは男の子も乗せました。ふたり乗りです。ろばはよたよたと歩きます。
橋の上で、向こうから来た男の人が眉をひそめました。
「ふたりも乗るなんて。ろばがかわいそうだ。自分たちがろばを担いでやったらどうだ」
おじいさんと男の子は降りて、ろばの足を棒に結んで担ごうとしました。
よいしょ、よいしょ。ろばは重くて、ふたりはふらふらです。橋の上でよろめいて、あっと思ったとき、ろばが棒から外れて川にぽちゃんと落ちてしまいました。
ろばは浅瀬でばしゃばしゃと暴れて、自分で岸に上がりました。びしょぬれで、ぷるぷると体を振ります。水しぶきがきらきらと光りました。
おじいさんと男の子は顔を見合わせました。
「人の言うことばかり聞いていたら、何もうまくいかないねえ」
おじいさんはぽりぽりと頭をかきました。男の子がくすっと笑います。
「おじいちゃん。ぼくたちは最初のまま、一緒に歩けばよかったんだね」
三人はまた歩き出しました。おじいさんと男の子が手を繋いで、ろばがのんびり隣を歩きます。結局、市場に着く頃には、もうろばを売る気はなくなっていました。
夕焼けの道を、三つの影が並んで帰っていきます。赤とんぼがすいすいと飛んでいて、稲穂が黄金色に揺れていました。