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oyasumi.baby よみきかせ時間目安:6分

魔法の指輪

むかし、ある村に、貧しいけれど心のやさしい少年がいました。名前はハンスといいます。

ハンスはお母さんとふたりで暮らしています。毎日、森で薪を拾って町で売り、わずかなお金でパンを買う暮らしでした。

ある日、森の奥で道に迷ってしまいました。夕日が沈みかけて、あたりがだんだん暗くなっていきます。

すると、茂みの中から弱々しい声が聞こえてきました。

「助けて」

見ると、白い蛇がいばらの枝にからまって動けなくなっています。ハンスはそっと枝をほどいてやりました。うろこがひんやりとして、月の光のように白く光っています。

蛇はするすると地面に降りて、ハンスの前でぺこりとお辞儀をしました。

「お礼に、これをあげましょう」

蛇の口から、小さな銀の指輪がころんと落ちてきました。細い輪の中に、星のような光が宿っています。

「その指輪をはめて、心から願いなさい。ただし、自分のためだけに使ってはいけません」

蛇はそう言い残して、草むらの中に消えていきました。

ハンスは指輪をはめてみます。ぴったりと指に合いました。温かくて、心がほっとするような不思議な感覚です。

「お母さんの腰の痛みが治りますように」

指輪がほのかに光って、あたたかい風がふわりと吹きました。家に帰ると、お母さんが不思議そうに腰をさすっています。

「あら、痛みがすっかり消えたわ」

それからハンスは、困っている人に出会うたびに指輪に願いました。

井戸が枯れた村では、「きれいな水が湧きますように」と願います。指輪が光ると、こんこんと清らかな水が湧き出しました。

嵐で壊れた橋を見つけたときは、「旅人が安全に渡れますように」と願いました。朝になると、丈夫な石の橋がかかっていたのです。

病気の女の子には、「元気になりますように」と願って、女の子の頬にほんのりと赤みが戻りました。

ハンスは何も見返りを求めません。お礼を言われると、照れくさそうに笑って首を振るだけです。

ある日、旅の途中で大きな町にたどり着きました。町は暗い雲に覆われて、人々がうつむいて歩いています。

「何があったのですか」

「お姫さまが病気なのです。どんな薬も効かなくて、もう笑わなくなってしまいました」

ハンスはお城に行きました。お姫さまは窓辺にぼんやりと座って、外を見ています。花も音楽も、何も喜ばなくなってしまったのです。

ハンスは指輪に願いました。けれど今回は、ただ治してとは言いません。

「お姫さまの心に、あたたかい光が届きますように」

指輪がやさしく光りました。お姫さまの窓辺に一羽の小鳥が止まって、美しい歌を歌い始めます。庭の花がぱっと開いて、甘い香りが風に乗って部屋に入ってきました。

お姫さまがそっと微笑みました。小さな小さな笑顔ですが、町を覆っていた暗い雲がすうっと晴れていきます。

「ありがとう。あなたは誰」

「ただの薪拾いです」

ハンスが照れくさそうに答えると、指輪がぽうっと光って、ハンスの指からそっと離れていきました。光の粒になって、空に昇っていきます。

指輪は星になったのです。夜空に小さく光る、やさしい星に。

ハンスは指輪がなくなっても寂しくありませんでした。指輪がなくても、やさしい心はここにある。そう思うと、胸があたたかくなります。

帰り道、ハンスは夜空を見上げました。たくさんの星の中に、ひときわやさしく光る星がひとつ。あの指輪の光です。

夜風がそっと頬をなでて、野原の草がさわさわと揺れています。虫の声が静かに響いて、月がまあるく空に浮かんでいました。