むかし、あるところに、ほっぺたに大きなこぶのあるおじいさんが住んでおりました。
こぶはまんまると膨らんでいて、おじいさんが歩くたびにゆらゆら揺れます。村の人たちはおじいさんのことを「こぶじい」と呼んでいました。
おじいさんは気にしていません。毎日にこにこと笑って、山へ薪を拾いに出かけます。
ある日のこと。おじいさんが山の奥で薪を集めていると、急に空が暗くなりました。ぽつ、ぽつ。雨粒が落ちてきます。
「これは降るぞ」
おじいさんは大きな木のうろに駆け込みました。雨はざあざあと激しくなって、雷がごろごろと鳴っています。
雨宿りをしているうちに、すっかり日が暮れてしまいました。
「今夜はここで寝るとしよう」
うとうとしていると、外がにわかに騒がしくなりました。太鼓の音がドンドコドンドコと聞こえてきます。
そっと覗いてみると、広場に赤や青の鬼たちが集まって、焚き火を囲んで宴を開いているではありませんか。鬼たちは太鼓を叩き、笛を吹き、楽しそうに踊っています。
おじいさんは踊りが大好きです。見ているうちに体がうずうずしてきました。
「ええい、わしも踊るぞ」
おじいさんは飛び出して、鬼たちの輪の中で踊り始めました。手を振って、足を踏み鳴らして。ひょうきんな踊りです。
鬼たちは目を丸くしましたが、すぐに手を叩いて喜びました。
「おもしろいじいさまだ。もっと踊れ、もっと踊れ」
おじいさんは夢中で踊ります。月の光が広場を照らして、鬼もおじいさんも、影が楽しそうに跳ねていました。
やがて夜が白み始める頃、鬼の親分がおじいさんに言いました。
「じいさま、明日の晩も来ておくれ。約束のしるしに、そのこぶを預かっておこう」
鬼の親分がぽんとほっぺたに触れると、あら不思議。こぶがぽろりと取れて、ほっぺたはつるりときれいになりました。
おじいさんは喜んで家に帰りました。
さて、隣にも同じようにほっぺたにこぶのあるおじいさんが住んでいました。こちらのおじいさんはこぶを気にしていて、取りたくて仕方ありません。
「わしも鬼に取ってもらおう」
隣のおじいさんはその夜、山の広場へ出かけていきました。鬼たちが宴を始めると、輪の中に入ります。
けれど、隣のおじいさんは踊りがあまり得意ではありません。おまけに鬼が怖くて、足がぶるぶる震えています。
「つまらん踊りだな」
鬼の親分が眉をしかめました。
「昨日のじいさまのほうがよっぽどおもしろかった。ほら、こぶを返してやるから、もう帰れ」
ぽん。反対のほっぺたにもこぶをくっつけられて、隣のおじいさんは両方のほっぺたにこぶがふたつになってしまいました。
隣のおじいさんはしょんぼりと帰っていきます。
でも最初のおじいさんは、隣のおじいさんのことが気の毒でなりませんでした。
「一緒に踊りの稽古をしよう。そうすればきっと、鬼たちも喜んでくれる」
ふたりのおじいさんは毎日、庭で踊りの練習をしました。手を叩いて、足を踏んで。だんだんと隣のおじいさんも上手になっていきます。
次の満月の夜。ふたりで山の広場へ行くと、鬼たちがまた宴を開いていました。ふたりで息を合わせて踊ります。
鬼の親分がにかっと笑いました。
「今夜はふたりか。なかなかいいぞ」
隣のおじいさんのこぶも、ぽろりと取れました。
山を降りるふたりの頭の上で、満月がまあるく輝いています。虫の声がりんりんと鳴いて、夜風がふたりの頬をやさしくなでていきました。