むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでおりました。
おじいさんは毎日、畑で野菜を育てています。ところが、悪さ好きのたぬきがやってきては、畑の大根やにんじんを荒らしてしまうのです。
「またたぬきにやられたか」
おじいさんは困り果てて、罠を仕掛けることにしました。
次の朝、たぬきが罠にかかっていました。おじいさんは縄でたぬきを縛って、柱にくくりつけます。
「おばあさん、このたぬきを見張っていてくれ。たぬき汁にして食べよう」
おじいさんはそう言い残して、町へ出かけていきました。
たぬきは縛られたまま、しょんぼりしたふりをしています。
「おばあさん、おばあさん。もう悪さはしません。どうか縄をほどいてください」
おばあさんはやさしい人です。たぬきがかわいそうになって、つい縄をほどいてしまいました。
するとたぬきは、ぺろっと舌を出しました。自由になったとたんに本性をあらわして、おばあさんに襲いかかったのです。おばあさんは抵抗することもできず、たぬきに殺されてしまいました。
おじいさんが帰ってきて、変わり果てたおばあさんを見つけました。おじいさんは声も出ませんでした。ただ、おばあさんのそばにしゃがみこんで、長いこと泣いていました。
その話を聞いて、かけつけてきたのが山のうさぎです。おじいさんとおばあさんの友だちでした。
「おじいさん、わたしがあのたぬきの仇を討ちます」
うさぎはたぬきを見つけて、一緒に山へ薪拾いに行こうと誘いました。たぬきは何も知らずについていきます。
たぬきが背中に薪の束を背負って歩いていると、うさぎが後ろから火打ち石をカチカチと打ちました。
「うさぎさん、その音はなんだい」
「ここはかちかち山だから、かちかち鳴るのさ」
やがて薪の束がボッと燃え始めました。
「ぼうぼう燃えている。なんの音だ」
「ここはぼうぼう山だから、ぼうぼう鳴るのさ」
たぬきはあちちちと飛び上がって、川に飛び込みます。背中がひどいやけどになりました。
次の日、うさぎはやけどの薬だと言って、唐辛子の入った味噌をたぬきの背中に塗りました。
「ひゃあっ。ひりひりするう」
たぬきは泣きわめきます。うさぎは涼しい顔をしていました。
やけどが治ったころ、うさぎが言いました。
「ねえ、たぬきさん。舟で魚釣りに行かない」
うさぎは自分のために木の舟を作り、たぬきには泥の舟を作りました。泥をこねて、よく乾かして、見た目だけは立派な舟です。
湖に漕ぎ出すと、たぬきの泥舟がだんだんと溶け始めます。水がじわじわと舟底に染みてきました。
「わあ、沈む、沈む。助けてくれえ」
たぬきが叫びますが、うさぎは櫂で泥舟を叩きました。舟がぐずりと崩れて、たぬきは湖の中に沈んでいきます。
「おばあさんの仇だ」
うさぎはそう言って、静かに岸へ戻りました。
おじいさんの家にうさぎが帰ると、おじいさんは庭のお墓の前に座っていました。小さな花が供えてあります。
「おばあさん、仇は討ちましたよ」
うさぎが静かに言うと、おじいさんはうなずいて、お墓にそっと手を合わせました。夕暮れの空が、だいだい色から紫色に変わっていきます。
山の向こうに日が沈むと、あたりはしんと静まりました。ひぐらしの声が、遠くでカナカナと鳴いています。