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oyasumi.baby よみきかせ時間目安:8分

ヘンゼルとグレーテル

むかし、大きな森のそばに、貧しいきこりの一家が暮らしていました。お父さんと、継母と、ヘンゼルとグレーテルという兄と妹です。

その年は作物がとれず、食べるものがほとんどありませんでした。毎晩、お父さんはため息をつきます。パンのかけらも残っていない棚を見つめて、頭を抱えました。

ある夜、継母がお父さんにこう言います。

「このままでは四人とも飢え死にしてしまうよ。子どもたちを森に連れていって、置いてきておくれ」

お父さんは首を横に振りました。けれど継母は何度もくり返します。お父さんは泣きながら、とうとううなずいてしまいました。

その話を、ベッドの中で聞いていたのがヘンゼルです。グレーテルがしくしく泣き出しました。

「泣かないで。ぼくがなんとかするよ」

ヘンゼルはそっと外へ出て、月の光にきらきら光る白い小石を、ポケットにいっぱい拾いました。

次の朝、お父さんと継母に連れられて、ヘンゼルとグレーテルは森へ入っていきます。ヘンゼルはこっそり、ポケットの小石をひとつずつ道に落としていきました。

森の奥で、お父さんは火を焚いてくれました。

「ここで待っていなさい。仕事が終わったら迎えに来るからね」

お父さんの声は、かすかに震えていました。

暗くなっても、迎えは来ません。けれどヘンゼルが言いました。

「大丈夫。月が出たら帰れるよ」

月の光に照らされて、白い小石がきらきらと道を示しています。ふたりは手をつないで、小石をたどって家に帰りました。お父さんは飛び出してきて、ふたりを抱きしめました。

けれど暮らしはますます苦しくなります。継母はまた、同じことを言いました。今度はお父さんが戸口に鍵をかけてしまったので、ヘンゼルは小石を拾いに出られません。

翌朝、ヘンゼルは配られたパンを食べずに、小さくちぎって道に撒きました。けれどパンくずは鳥たちに食べられてしまって、帰り道はわからなくなりました。

歩いても歩いても、森は続きます。お腹がぐうぐうと鳴って、足が重くなってきました。

そのとき、甘い匂いがどこからか漂ってきたのです。チョコレートのような、焼きたてのクッキーのような、ふんわりとあたたかい香り。

匂いのするほうへ歩いていくと、木立の向こうに小さな家が見えました。

ヘンゼルとグレーテルは目を丸くしました。屋根はチョコレート、壁はクッキー、窓ガラスは透きとおった飴でできています。庭にはキャンディーの飾りがぶら下がって、マシュマロの花が咲いていました。

ふたりはあまりのおなかのすきように、壁のクッキーをぽきりと折って食べ始めました。さくさくとおいしくて、バターの風味がふわりと広がります。

そこへ家の扉が開いて、おばあさんが顔を出しました。

「まあまあ、かわいいお客さん。お入りなさい。もっとおいしいものがあるよ」

にこにこと笑うおばあさんに連れられて、ふたりは家の中に入りました。テーブルの上には、ホットケーキにクリームたっぷりのパフェ、焼きたてのアップルパイが並んでいます。おなかいっぱい食べたふたりは、ふかふかのベッドですぐに眠ってしまいました。

ところが、このおばあさんは実は魔女でした。お菓子の家は、森で迷った子どもたちをおびき寄せるための罠だったのです。

次の朝、魔女はヘンゼルを鳥かごに入れてしまいました。

「おまえは太らせてから食べてやる。おまえはわたしの手伝いをしな」

グレーテルは毎日、お兄ちゃんに食事を運びます。魔女はヘンゼルが太ったかどうか確かめるために、指を出させました。

ヘンゼルは賢い子です。指の代わりに、細い鶏の骨を突き出しました。魔女は目が悪くて、気がつきません。

「まだ痩せておるな。もっと食べさせなきゃ」

何日も過ぎました。グレーテルはずっと考えていました。なんとかしてお兄ちゃんを助けなくては。

ある朝、魔女がオーブンに火をつけて言いました。

「オーブンが温まったか、のぞいてごらん」

グレーテルはぴんときました。押し込まれてはたまりません。

「おばあさん、のぞき方がわからないの。やって見せてくれる」

魔女がオーブンの前にかがんだとたん、グレーテルがぐっと押して、扉をぱたんと閉めました。

グレーテルは急いでヘンゼルのかごを開けます。

「お兄ちゃん」

「グレーテル」

ふたりはぎゅっと抱き合いました。

お菓子の家の中を探すと、宝石や金貨がたくさん見つかりました。ポケットにいっぱい詰めて、ふたりは森へ出ました。

すると、一羽の白い鳥がちちちと鳴いて、先を飛んでいきます。鳥について歩くと、森の道が開けて、やがて見覚えのある景色が見えてきました。

お父さんが飛び出してきて、ふたりを抱きしめました。目に涙がきらりと光っています。継母はもういませんでした。

「ヘンゼル、グレーテル。すまなかった。ずっと、ずっと後悔していたんだよ」

宝石のおかげで、もう貧しい暮らしをしなくてすみます。お父さんはおいしいスープを作って、三人で一緒に食べました。湯気がほわほわと立ちのぼって、あたたかい匂いが部屋いっぱいに広がります。

夜になって、暖炉の火がぱちぱちと燃えています。ヘンゼルとグレーテルはお父さんの両側にぴったりとくっついて、火を見つめていました。窓の外の森が、月の光に静かに照らされています。