ある晴れた日のこと。
一匹の犬が、大きなお肉をくわえて歩いていました。お肉屋さんでもらった、とびきり上等なお肉です。
犬はうれしくてたまりません。しっぽをぶんぶん振りながら、家に帰る途中の橋を渡ります。
ふと、橋の上から川を覗き込みました。
すると、水の中にもう一匹の犬がいるではありませんか。その犬も大きなお肉をくわえています。
「あいつのお肉も欲しいなあ」
犬はぐっと身を乗り出しました。水の中の犬のお肉を取ろうとして、大きな口を開けます。
ぽちゃん。
口を開けた拍子に、くわえていたお肉が川に落ちてしまいました。お肉はぷかりと浮かんで、すうっと流れていきます。
水の中の犬も、お肉を落として困った顔をしていました。もちろんそれは、水に映った自分の姿だったのです。
犬はしょんぼりと橋の上に座り込みました。お肉はもう、どこにも見えません。
「あのお肉だけで、じゅうぶんだったのになあ」
川のせせらぎが、さらさらと音を立てています。夕焼けが水面をだいだい色に染めて、空にはうすい雲がゆっくりと流れていました。
犬はとぼとぼと家に帰ります。お腹はぺこぺこです。けれど家に着くと、飼い主のおじさんが温かいスープを用意して待っていてくれました。
「おかえり。今日はいい天気だったかい」
犬はしっぽをゆらりと振って、スープにそっと鼻を近づけました。おいしい匂い。じゅうぶん温かい。