むかし、ある村に三人兄弟が暮らしていました。末っ子はぼんやり屋で、みんなから「おばかさん」と呼ばれています。
ある日、上の兄さんが森へ木を切りに出かけました。お母さんが持たせてくれた上等なケーキとぶどう酒を持って、意気揚々と歩いていきます。
森の中で、灰色のおじいさんに出会いました。
「そのケーキとぶどう酒を、少し分けてくれないかね」
「やなこった。分けたら自分の分が減るじゃないか」
上の兄さんは断って、木を切り始めました。ところが斧がすべって、指を怪我してしまいます。痛い痛いと帰っていきました。
次の日、真ん中の兄さんが出かけましたが、やっぱり同じことになりました。
三日目、末っ子が行くことになりました。持っているのは固いパンと水だけです。
森の中で、灰色のおじいさんに出会います。
「そのパンと水を、少し分けてくれないかね」
「固いパンでよければ、どうぞ」
末っ子はにこにこしながら、パンを半分に割って差し出しました。するとふしぎなことに、固いパンがふわふわのケーキに変わり、水がおいしいぶどう酒に変わったのです。
ふたりで楽しく食べたあと、おじいさんが言いました。
「やさしい子だね。あの古い木の根元を掘ってごらん。いいものがあるよ」
末っ子が木の根元を掘ると、金色に輝くがちょうが出てきました。羽の一枚一枚が太陽の光を受けて、まぶしいほどに光っています。
末っ子はがちょうを抱えて、町の宿屋に泊まりました。
宿屋のおかみさんの三人の娘たちが、金のがちょうを見て目を輝かせます。
「あの金の羽がほしいわ」
夜中にこっそり、一番上の娘ががちょうの羽を触りました。すると手がぴたりとくっついて、離れません。
「ちょっと、離してよ」
二番目の娘が引っ張ると、今度はその娘もくっつきました。三番目の娘も、くっついてしまいます。
朝になって、末っ子はがちょうを抱えて歩き始めました。三人の娘がぞろぞろとついてきます。くっついて離れないのです。
それを見た牧師さまが駆け寄って娘たちの手を引っ張ると、牧師さまもくっつきました。通りかかった農夫のおじさんも、パン屋さんも、次々にくっついていきます。
がちょうを先頭に、長い長い行列ができました。みんな離れたいのに離れなくて、てんやわんやの大騒ぎです。
この町のお城には、お姫さまがいましたが、お姫さまは生まれてから一度も笑ったことがありません。王さまは困り果てて、お触れを出しました。
「姫を笑わせた者に、姫と結婚する権利を与える」
末っ子がくっつき行列を連れてお城の前を通りかかったとき、窓からお姫さまが見下ろしていました。
がちょうの後ろに娘が三人。その後ろに牧師さまがよろよろ。農夫がどたどた。パン屋がふうふう。みんなくっついたまま、あたふたと走っています。
お姫さまは目を丸くして、それから声を上げて笑いました。生まれて初めての笑い声です。
「あはは。あはははは」
笑い声がお城じゅうに響きました。お姫さまの笑顔は春の花が咲いたように明るくて、見ている人みんなが思わずつられて笑います。
くっついていた人たちも、お姫さまの笑い声を聞いたとたん、ぽろぽろと離れていきました。魔法が解けたのです。
王さまは約束通り、末っ子とお姫さまの結婚を許しました。末っ子はおばかさんなんかではありませんでした。やさしい心を持った、すてきな若者だったのです。
金のがちょうはお城の庭に住みつきました。夕暮れどき、庭の池のほとりで金の羽が夕日を受けてきらきらと光っています。お姫さまは毎日がちょうの頭をなでて、くすくすと笑いました。
お城の塔から見渡すと、町の灯りがぽつぽつと灯り始めています。風がやわらかく吹いて、どこかから夕ごはんのいい匂いがしてきました。