むかし、あるところに、まじめな木こりが住んでおりました。
ある日、木こりが泉のそばで木を切っていると、手がすべって、大切な斧が泉にぽちゃんと落ちてしまいました。
「ああ、あれがなくては仕事ができない」
木こりが泉の前で頭を抱えていると、水の中からぴかりと光が差して、泉の女神さまが現れました。長い髪が水のようにさらさらと流れて、やさしい目をしています。
女神さまは手に金の斧を持っていました。
「あなたが落としたのは、この金の斧ですか」
木こりは首を横に振りました。
「いいえ、違います」
女神さまは今度は銀の斧を取り出しました。
「では、この銀の斧ですか」
「いいえ、それも違います。わたしのは、古い鉄の斧です」
女神さまはにっこりと微笑みました。
「あなたは正直な人ですね。ご褒美に、三本ともお持ちなさい」
木こりは目を丸くして、深々とお辞儀をしました。金の斧も銀の斧も、キラキラと輝いてまぶしいほどです。けれど木こりがいちばん嬉しかったのは、使い慣れた鉄の斧が戻ってきたことでした。
この話を聞いた隣の男が、わざと自分の斧を泉に投げ込みました。
女神さまが現れて、金の斧を見せます。
「あなたが落としたのは、この金の斧ですか」
「そうそう、それそれ。わたしの斧です」
女神さまは悲しそうに首を振りました。
「嘘をつく人には何もあげられません」
女神さまは水の中に消えて、隣の男は自分の斧も返してもらえませんでした。
最初の木こりは、いつもどおり鉄の斧で働きます。ザクッ、ザクッと気持ちのよい音が山に響いて、木の香りがふわりと広がりました。金の斧と銀の斧は家に大切に飾ってありますが、木こりは鉄の斧が一番好きでした。手に馴染んだこの斧が、一番よく切れるのです。
夕暮れどき。木こりは泉で手を洗いました。水面に夕焼けが映って、まるで金色の湖のようです。遠くの山に日が沈んで、空がやさしい紫色に変わっていきました。