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oyasumi.baby よみきかせ時間目安:6分

かえるの王様

むかし、あるお城に、わがままなお姫さまが暮らしていました。

お姫さまの一番のお気に入りは、金の毬でした。きらきら光る美しい毬を、お城の庭で投げては受ける。それがお姫さまの毎日の遊びです。

ある暑い夏の日のこと。お姫さまは泉のそばで金の毬を投げていました。木漏れ日が水面にちらちらと映って、あたりは涼しげな水の音に包まれています。

ぽーんと高く投げた毬が、手からすべりました。毬はころころと転がって、泉の中にぽちゃんと落ちてしまいます。

泉は深くて、底が見えません。金の毬は沈んで見えなくなりました。

お姫さまは泣き始めました。大事な大事な金の毬。どうしても取り戻したい。

すると、泉の中からかえるが一匹、ぴょこんと顔を出しました。

「お姫さま、どうして泣いているの」

「金の毬が泉に落ちたの。取ってくれたら、なんでもあげるわ」

「なんでもいらないよ。ただ、ぼくと一緒にごはんを食べて、一緒に遊んで、友だちにしてくれればいい」

お姫さまはすぐにうなずきました。毬さえ戻ってくれば、かえるとの約束なんて守らなくてもいいだろうと思ったのです。

かえるは泉の底に潜って、金の毬を持って戻ってきました。水のしずくがきらきらと光っています。

お姫さまは毬を受け取ると、かえるを置いてさっさとお城に帰ってしまいました。かえるがいくら呼んでも、振り向きません。

次の日の夕ごはんどき。お城の扉をぺたぺたと叩く音がしました。

「お姫さま、約束を守ってよ」

かえるが来たのです。お姫さまは嫌な顔をしましたが、王さまがおっしゃいました。

「約束は守らなければならないよ」

しぶしぶお姫さまはかえるをテーブルに座らせました。かえるはお皿のそばにちょこんと座って、お姫さまと一緒に夕ごはんを食べます。スープをちょぴちょぴと飲んで、パンのかけらをもぐもぐとかじりました。

「おいしいね」

かえるがにこにこと言います。お姫さまはまだ嫌そうな顔をしていましたが、かえるの嬉しそうな様子を見ていると、すこし心がやわらぎました。

食事のあと、かえるは庭の花の話をしてくれました。泉から見える景色のこと。水の中から見上げる月がどれほどきれいか。星の光が水面で踊るように揺れることを。

お姫さまは初めて、かえるの話に耳を傾けました。水の底から見る世界は、思っていたよりずっと美しいのかもしれません。

「明日も来ていい」

かえるがそっと聞きました。お姫さまは少し迷って、それからうなずきました。

「いいわ」

次の日も、その次の日も、かえるはやってきました。一緒にごはんを食べて、庭を散歩して、泉のほとりでおしゃべりをします。お姫さまは気がつくと、かえるが来るのを楽しみに待つようになっていました。

ある夕暮れ、泉のほとりでかえるがぽつりと言いました。

「ありがとう。友だちになってくれて」

お姫さまはかえるをそっと手のひらに乗せました。小さくてひんやりした体。けれど、目はやさしく澄んでいます。

「わたしこそ、ごめんなさい。最初は約束を守ろうとしなかった」

そう言って、かえるのおでこにそっとキスをしました。

すると、ぱっと光が弾けて、かえるの姿が変わり始めます。みるみるうちに、やさしい目をした王子さまが立っていました。

「魔法使いに、かえるに変えられていたんだ。心からの友情だけが、魔法を解くことができた」

お姫さまは驚いて、それから嬉しくて、笑いました。

泉の水面が夕日を映して、金色にきらきらと輝いています。かえるの声がどこかで静かに鳴いて、庭の花がやわらかな風に揺れていました。空の高いところに、一番星がそっと灯ります。