春の森は、音でいっぱいです。
女の子は森の入り口に立って、耳を澄ませました。どこからか、さらさらという音が聞こえてきます。
小川の音でした。雪どけの水が集まって、小さな流れを作っています。石の上をころころと転がって、きらきらと光りながら流れていきます。
女の子は小川に沿って歩き始めました。ぬれた落ち葉がやわらかくて、足元からしっとりとした土の匂いがします。
頭の上で、ちちち、と鳥が鳴きました。見上げると、枝の先に小さなメジロがいます。うぐいす色の体がぴょんと跳ねて、また鳴きました。
ちちちち。ぴいぴい。つぴつぴ。
あちこちの枝で鳥たちが歌っています。春が来たことを知らせ合っているようです。
もう少し奥へ歩いていくと、大きなぶなの木が立っていました。幹が太くて、根元がこぶのように盛り上がっています。
女の子は根元に腰をおろしました。背中を幹にあずけると、木がほんのりとあたたかい。日の光を吸い込んでいるのかもしれません。
目を閉じると、音がもっとよく聞こえます。
風が木の枝を揺らす音。さわさわ、さわさわ。高いところの葉っぱがこすれ合って、しゃらしゃらと鳴っています。
地面の下から、かすかにごくごくという音がしました。木が根っこから水を吸い上げているのです。春になって目を覚ました木が、のどいっぱいに水を飲んでいます。
ぶうんと低い音。まるまる太ったハチが、花から花へ飛んでいきました。すみれの花が足元にぽつぽつと咲いていて、淡い紫色が木漏れ日に透けています。
かさ、かさ。落ち葉の下で何かが動きました。のぞいてみると、小さなトカゲが日向ぼっこをしています。女の子と目が合うと、ちょろちょろと葉っぱの陰に隠れていきました。
ぽたり。
木の枝から水のしずくが落ちてきて、女の子の手の甲に当たりました。冷たくて、少しだけくすぐったい。見上げると、枝の先に新しい葉っぱがちいさく開きかけています。
うすい緑色の葉っぱが、光を通してきらきらと輝いていました。
遠くでキツツキがこんこんと木を叩いています。その音がこだまになって、森じゅうに響いていきました。こん、こん、こん。静かな森のリズムです。
女の子はぶなの木にもたれたまま、森のささやきに耳を傾けています。風の音と、水の音と、鳥の声。森の音がゆるやかに重なり合って、やさしいメロディーを奏でていました。
木漏れ日がゆっくりと動いて、やわらかな光の粒が女の子の髪に降りかかります。森の匂いが深くなって、遠くの山がうすい藍色にかすんでいました。