田舎の野原に、一匹のねずみが住んでおりました。
小さな穴の中が、田舎ねずみのお家です。木の実や麦の粒を少しずつ集めて、つつましく暮らしています。
ある日、都会から友だちのねずみが遊びに来ました。都会ねずみはぴかぴかの毛並みで、おしゃれな帽子を被っています。
「よく来てくれたねえ。さあ、食べておくれ」
田舎ねずみは、とっておきの麦の穂と、どんぐりの実と、干した木の実を並べました。
都会ねずみはちょっと首をかしげます。
「ありがとう。でも、いつもこれだけなの」
「うん。でもおいしいよ」
田舎ねずみはにこにこして、どんぐりをかじります。かりこり、かりこり。
都会ねずみは、もそもそと麦の穂をかじりました。
「きみ、都会に来てみないか。もっとおいしいものがたくさんあるよ」
田舎ねずみは目を輝かせて、都会ねずみについていきました。
都会に着くと、大きなお屋敷がありました。都会ねずみは壁の隙間からするりと入って、食堂のテーブルの上に飛び乗ります。
田舎ねずみは目を丸くしました。テーブルの上には見たこともないごちそうが並んでいるのです。チーズにハム、パンにバター。ケーキにはいちごがのっていて、クリームがたっぷり。
「すごいなあ。これ、ぜんぶ食べていいの」
「もちろん。さあ、好きなだけお食べ」
田舎ねずみがチーズをひとかけら口に入れた、そのときです。
ガチャン。
ドアが開いて、人間が入ってきました。
「逃げろ」
都会ねずみが叫びます。ふたりはテーブルから飛び降りて、壁の隙間に逃げ込みました。心臓がどきどきと鳴っています。
しばらくして人間がいなくなると、また食べ始めます。今度はハムに手を伸ばしました。
すると、また足音が聞こえてきました。今度は猫です。
「にゃあ」
ふたりはまた慌てて逃げ出しました。田舎ねずみはぶるぶると震えています。
「ぼく、もう帰るよ」
都会ねずみはちょっと寂しそうにしました。
「そうかい。もう少しいればいいのに」
田舎ねずみは首を横に振りました。
「ごちそうはおいしかった。でも、びくびくしながら食べるごちそうより、安心して食べる麦の穂のほうが、ぼくにはおいしいんだ」
田舎ねずみは野原に帰ってきました。小さな穴のお家がここにあります。どんぐりと麦の穂。いつもと同じ夕ごはんですが、のんびりと味わって食べることができます。
夕焼けが野原を金色に染めていました。虫の声がりんりんと聞こえて、風がやさしく草を揺らしています。田舎ねずみは穴の入り口に座って、大きな夕日をぼんやりと眺めました。
「やっぱり、ここがいちばんだなあ」
星がぽつりぽつりと現れ始めて、野原はだんだん静かになっていきます。