秋の午後。古い図書室の扉を開けました。
ぎい、と扉が鳴ります。中はしんと静かで、本の匂いがしました。古い紙とインクの、すこし甘い匂い。
天井が高くて、壁いっぱいに本棚が並んでいます。茶色い革の表紙、青い布の表紙、金色の文字が光る背表紙。何百冊、何千冊の本がぎっしりと詰まっていました。
大きな窓から光が差し込んでいます。木漏れ日が窓ガラスを通り抜けて、床に光の模様を描いていました。模様はゆっくりと動いて、風が吹くたびにゆらゆらと揺れます。
窓辺にいちょうの木が立っていて、黄色い葉っぱが光を通してきらきらと輝いていました。葉っぱが一枚、ひらりと落ちて、窓の外を静かに舞い降りていきます。
奥の席に座りました。木の椅子がきしりと鳴って、テーブルの上に光の帯が横たわっています。
棚の奥に古い地球儀がありました。くるりと回すと、かすかにきいと鳴ります。知らない国の名前が、小さな文字で書いてありました。いつか行ってみたいな、と思いました。
本棚から一冊の本を取り出しました。表紙に小さな船の絵が描いてあります。背表紙が少し色褪せていて、長い時間ここにいたことがわかります。ページを開くと、かすかに紙の音がしました。さらり、さらり。
文字を追いかけていくと、景色が広がります。青い海、白い帆、風の音。本の中の世界がゆっくりと目の前に浮かんできました。
窓の外で、鳥がちちちと鳴いています。どこかで落ち葉が風に乗って飛んでいきました。木漏れ日が本のページの上でゆらめいて、文字に光の粒が降りかかります。船が波を越えていく場面を読んでいると、潮の匂いがするような気がしました。
時計がこつこつと時を刻んでいます。静かな図書室の中で、そのリズムだけが規則正しく響いていました。こつ、こつ、こつ。
ページをめくるたびに、紙のやわらかい感触が指先に伝わります。すこしざらざらして、すこしつるつる。角が少し折れていて、昔だれかがここで読むのをやめたのかもしれません。
読んでいるうちに、まぶたがすこし重くなってきました。文字がゆっくり揺れて、木漏れ日がやさしくまたたいて。
本を胸の上に乗せたまま、椅子にもたれかかりました。窓から入ってくる風がほんのりとあたたかくて、いちょうの葉っぱの匂いがかすかにします。
時計の音がだんだん遠くなっていきます。こつ、こつ、こつ。鳥の声がとおくで聞こえて、光の粒がゆっくりと降り注いでいました。