春がきました。
山の雪がとけ始めています。お日さまが高くなって、空気がほんの少しだけやわらかくなりました。
ぽた、ぽた。
軒先のつららから、水のしずくが落ちています。ぽた、ぽた、ぽた。ひとつずつ、ゆっくりと。光を通して、しずくがきらりと光りました。
屋根の雪がずるりと動いて、どさっと地面に落ちます。積もっていた雪の下から、黒い土が顔を出しました。しめった土の匂いがふわりと漂います。
裏の山では、あちこちから水の音がしています。ちょろちょろ、さらさら。雪どけの水が小さな流れを作って、石のあいだを縫うように走っていきます。
流れが集まって、だんだん太い川になりました。ざあざあと音を立てて、谷を下っていきます。水は冷たくて、手を入れるとじんと指先がしびれました。
川辺にネコヤナギが立っています。枝の先に、銀色のふわふわの芽がついていました。指で触ると、ビロードのようにやわらかい。
ふきのとうが、土の中からぽこんと顔を出しました。うすい黄緑色の丸い形。周りの雪をぐっと押しのけて、力強く伸びています。
日当たりのいい斜面では、雪の下からおおいぬのふぐりが咲いていました。空色の小さな花が、風に揺れています。
ぽた、ぽた、ちょろちょろ、さらさら。
雪どけの音がどこからでも聞こえてきます。山じゅうが水の音に包まれていました。
遠くの空をつばめが飛んでいきます。今年はじめてのつばめです。きゅるきゅると鳴きながら、低く高く、すいすいと飛んでいきました。
夕方になると、空がうすい桃色に染まりました。山の向こうに日が沈んでいきます。まだ寒いけれど、夕焼けの色がどこか春の色をしていました。
ぽた、ぽた。つららのしずくが、まだ静かに落ち続けています。ひとしずく、ひとしずく。春を運んでくるように、ゆっくりと、やさしく。