夕方のこと。空に大きなもくもく雲がひとつ、浮かんでいました。
雲はとても低いところにいて、裏山のてっぺんに触れそうです。夕日に照らされて、ふちが金色に光っています。
男の子は裏山に登りました。息を切らせて頂上に着くと、目の前に雲がありました。手を伸ばすと、ふわりと指先に触れます。
綿あめのようで、もっとやわらかい。冷たくなくて、ほんのりと温かい。
男の子はそっと雲の上に足を乗せました。沈むかと思ったけれど、ふかふかの地面のように支えてくれます。二歩、三歩。もう雲の上を歩いていました。
足の裏がくすぐったい。一歩踏み出すたびに、ぽふ、ぽふ、とやわらかい音がします。
見渡すと、雲の上には不思議な景色が広がっていました。あちこちに雲の丘ができていて、谷間のくぼみには虹色の霧がたまっています。小さな水たまりが夕日を映してきらきらと光っていました。
風がそよそよと吹いて、雲のかけらがふわふわと飛んでいきます。捕まえようとすると、指の間をすりぬけて、また空に戻っていきました。
遠くで鳥が鳴いています。雲の上を飛ぶ鳥は、羽が金色に光っていました。ふわふわの雲を蹴って、男の子はもっと奥へ歩いていきます。
雲の丘を登ると、向こう側に広い広い雲の平原がありました。夕日の光が横から差して、全体がだいだい色に染まっています。雲の影が長く伸びて、紫色の筋を作っていました。
ふと足元を見ると、雲に小さな穴が開いていて、はるか下に町の灯りが見えました。ぽつぽつと灯り始めた家々の明かり。夕ごはんの煙が細く立ちのぼっています。
男の子は雲の上にごろんと寝転がりました。背中がふかふかに沈み込んで、まるで世界で一番やわらかいベッドです。
空を見上げると、夕焼けが薄紅色から紫色に変わっていくところでした。最初の星がひとつ灯ります。それからふたつ、みっつ。星がどんどん増えていって、やがて空いっぱいに広がりました。
雲が静かに動いています。ゆっくりと、ゆっくりと。男の子を乗せたまま、空の上を流れていきます。
風がやさしくなでていきます。頬に当たる風は、夕日の温もりがまだ少しだけ残っていて、ほんのりとあたたかい。
遠くで夜の鳥がひと声鳴きました。星の光が雲に反射して、あたり一面がほのかに青く光っています。
男の子はそっと目を閉じました。雲のゆりかごに包まれて、星の光を浴びながら。風の音だけが、さらさらとやさしく響いています。