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ピーターパン

ロンドンの町に、ダーリング家の三人きょうだいが暮らしていました。お姉さんのウェンディ、弟のジョン、そして一番小さなマイケルです。

三人は同じ子ども部屋で寝ています。窓の外には、ロンドンの屋根がずらりと並んで、煙突から白い煙がのぼっていました。

ある夜のこと。窓がそっと開いて、ひとりの男の子が飛び込んできました。緑の服を着て、先のとがった帽子をかぶっています。

ピーターパンです。

「ぼくの影を探しているんだ。どこかに落としちゃって」

ウェンディが見つけて、影を縫いつけてあげました。ピーターパンはにっこりと笑います。

「お礼に、すてきなところへ連れていってあげる。ネバーランドだよ」

「ネバーランド」

ウェンディの目がきらりと光りました。ジョンもマイケルも、ベッドから飛び起きます。

「飛ぶには妖精の粉が必要だよ。ティンカーベル、お願い」

小さな妖精がちりちりと光りながら、三人の頭の上をくるくると飛びました。金色の粉がぱらぱらと降りかかります。

「楽しいことを考えるんだ。そうすれば飛べる」

マイケルが一番先に浮かびました。ふわりと体が持ち上がって、天井にぶつかりそうになります。ジョンもウェンディもふわりと浮いて、三人は窓から夜の空へ飛び出しました。

月が大きく輝いています。ロンドンの町が足の下にきらきらと広がって、テムズ川が銀色のリボンのように光っていました。

「右から二番目の星をまっすぐ、そして朝までずっと」

ピーターパンが先頭を飛んでいきます。雲を抜けて、星のあいだを抜けて、風が頬をなでます。マイケルの手をウェンディがしっかり握っていました。

やがて、眼下に緑の島が見えてきました。ネバーランドです。

ジャングルがあって、海があって、岩山があります。人魚たちが入り江で水しぶきを上げていました。虹色の尾びれがきらきらと光っています。

森の中には、ピーターパンの仲間のロストボーイズが暮らしていました。大きな木の下に秘密の隠れ家があって、中は枯れ葉のベッドと木の実のランプで居心地よく飾られています。

「ウェンディ、ぼくたちにお話を聞かせて」

ロストボーイズがお願いしました。お母さんがいない子どもたちは、誰かにお話を読んでもらったことがないのです。

ウェンディは毎晩、みんなにお話をしてあげました。シンデレラや白雪姫のお話。ロストボーイズは目をきらきらさせて聞いています。

昼間は冒険です。人魚の入り江で水しぶきを上げて泳いだり、インディアンの酋長と友だちになって焚き火を囲んだり。ジョンは木の枝で剣を作って、マイケルはぬいぐるみのくまを抱えて、毎日が驚きでいっぱいでした。

ネバーランドの夜は星がとても近くに見えました。寝転がって手を伸ばすと、星に触れそうです。虫の声の代わりに、遠くで波がざぶんと鳴っています。ティンカーベルが小さな光を灯して、まるでランプのように枕元で光っていました。

ある日、海賊のフック船長がやってきました。大きな帽子に赤い上着、片手に鉤の付いた怖い船長です。でもピーターパンはちっとも怖がりません。

「さあ、勝負だ」

ピーターパンは空を飛んで、フック船長の周りをくるくると回ります。ジョンもマイケルもロストボーイズも力を合わせて、海賊たちを追い払いました。

「やったあ」

みんなで飛び上がって喜びます。夕日が海をオレンジ色に染めて、波がきらきらと光っていました。

けれどウェンディは、だんだんお母さんのことが恋しくなってきました。おやすみのキスをしてくれる、あたたかい手のことを。

「ピーターパン、わたしたち、帰らなくちゃ」

ピーターパンはちょっとだけ寂しそうな顔をしましたが、すぐにいつもの笑顔に戻りました。

「わかった。でもまた遊びに来てよ」

三人は妖精の粉をふりかけてもらって、ネバーランドを飛び立ちました。島がどんどん小さくなっていきます。ピーターパンが手を振っているのが見えました。

子ども部屋の窓から飛び込むと、お母さんが椅子で眠っていました。三人の帰りを待ちながら、うとうとしてしまったのです。

ウェンディがそっとお母さんの膝に頭を乗せると、お母さんがぱちりと目を開けました。

「おかえりなさい」

お母さんは微笑んで、三人をぎゅっと抱きしめました。窓の外では月が静かに輝いて、右から二番目の星がひときわ明るく光っています。ネバーランドのほうから、やわらかい風がそっと吹いてきました。