むかし、ある国に、心のやさしい娘が住んでおりました。
お母さんを早くに亡くし、お父さんが連れてきた新しいお母さんと、二人のお姉さんと暮らしています。新しいお母さんも、お姉さんたちも、娘にはつらく当たりました。
朝から晩まで掃除をさせられ、灰まみれの暖炉のそばで眠る日々。いつしか娘は「シンデレラ」と呼ばれるようになりました。灰かぶり、という意味です。
けれどシンデレラは不平を言いません。庭に来る小鳥たちに話しかけ、野原の花に水をやり、小さな幸せを見つけながら暮らしていました。
ある日のこと。お城から招待状が届きました。王子さまが舞踏会を開くというのです。
お姉さんたちは大喜びで、きれいなドレスを選んだり、髪を結い上げたりしています。シンデレラも行きたいと思いましたが、着ていくドレスがありません。
「おまえは留守番よ。灰だらけの格好では恥ずかしいわ」
お姉さんたちが馬車に乗って出かけてしまうと、シンデレラは庭に出て、お母さんが植えてくれた木の下に座りました。涙がぽろぽろとこぼれます。
そのとき、ふわりと光が漂ってきました。
「泣かないで、シンデレラ」
振り向くと、やさしいおばあさんが立っています。銀色のマントをまとった、魔法使いのおばあさんでした。
「あなたも舞踏会に行きなさい。わたしがお手伝いしましょう」
おばあさんが魔法の杖を振ると、庭のかぼちゃが金色に光る馬車に変わりました。ねずみたちが白い馬になり、とかげが御者になります。
シンデレラの灰まみれの服が、きらきらと光り始めました。みるみるうちに、星の光を織り込んだような銀色のドレスに変わっていきます。足元には、ガラスの靴がきらりと光っていました。
「まあ、きれい」
シンデレラは自分の姿に目を丸くしました。
「ただし、約束がひとつ。真夜中の十二時になったら、魔法が解けます。それまでに帰ってくるのですよ」
シンデレラは馬車に乗って、お城へ向かいました。月の光の中を走る金色の馬車。風が頬をなでて、ドレスの裾がふわりとなびきます。
お城の舞踏会は華やかでした。シャンデリアの灯りがきらきらと輝いて、音楽が流れています。たくさんの人が踊っていました。
シンデレラが広間に入ると、みんなが振り向きました。王子さまがまっすぐにシンデレラのもとへ歩いてきます。
「踊っていただけますか」
ふたりはワルツを踊りました。くるりと回るたびに、ドレスが星のように光ります。王子さまの手は温かくて、ふたりの息がぴたりと合いました。
時間はあっという間に過ぎていきます。楽しくて、楽しくて、シンデレラは時間のことを忘れていました。
ゴーン、ゴーン。
時計が鳴り始めました。ひとつ、ふたつ、みっつ。真夜中の十二時です。
「いけない」
シンデレラは階段を駆け下りました。慌てた拍子に、ガラスの靴が片方脱げてしまいます。けれど拾いに戻る時間はありません。
お城の門を出たとたん、馬車はかぼちゃに、馬はねずみに、ドレスは元の灰まみれの服に戻りました。足元に残ったのは、ガラスの靴が一足だけ。
王子さまは階段に残されたガラスの靴を拾い上げました。
「この靴の持ち主を必ず見つけ出す」
王子さまは国じゅうを回って、すべての娘にガラスの靴を試しました。けれど、誰の足にも合いません。
やがて、シンデレラの家にもやってきました。お姉さんたちが先に試しますが、靴は入りません。
「ほかに娘は」
台所のすみで、灰まみれのシンデレラがそっと立ち上がりました。
靴に足を入れると、ぴったりと合いました。もう片方の靴も、ポケットから取り出して履いてみせます。
王子さまはにっこりと笑いました。
「あの夜の方ですね」
シンデレラはうなずいて、ほほえみました。お姉さんたちはぽかんと口を開けています。
シンデレラはお城で暮らすことになりましたが、お姉さんたちのことも許しました。
「一緒にお茶を飲みましょう。わたしたちは家族でしょう」
お城の庭に夕日が差して、バラの花がやわらかく揺れています。シンデレラは窓辺に座って、庭に来た小鳥たちに手を振りました。あの暖炉のそばで過ごした日々にも、小鳥たちがそばにいてくれたことを思い出します。
星がひとつ、またひとつと灯り始めて、お城の塔の上に三日月が浮かんでいました。