むかし、ある家の天井裏に、ねずみたちが住んでおりました。
大きいねずみ、小さいねずみ、太ったねずみ、やせたねずみ。みんな仲良く暮らしていましたが、ひとつだけ困ったことがありました。
家の猫です。
黒くて大きな猫が、いつも台所のそばに寝そべっています。ねずみたちが食べ物を取りに行こうとすると、猫が目をぎらりと光らせて飛びかかってくるのです。
「このままでは、食べ物がなくなってしまう」
ねずみたちは天井裏に集まって、会議を開きました。年寄りの白ねずみが議長です。
「さて、猫から身を守るには、どうすればよいか。意見のある者は申し出なさい」
若いねずみがぴょんと手を挙げました。
「猫の首に鈴をつけましょう。鈴が鳴れば、猫が来たことがすぐにわかります」
チリンチリンと鈴の音が聞こえたら、みんなで隠れればいい。なんて名案でしょう。
ねずみたちはぱちぱちと手を叩きました。
「すばらしい。それがいい」
「名案だ、名案だ」
みんな大喜びです。ところが、年寄りの白ねずみがこほんと咳払いをしました。
「で、誰が猫の首に鈴をつけに行くのかね」
しん。
天井裏が静まりかえりました。ねずみたちは顔を見合わせます。
「わ、わたしは足が遅いから」
「わたしは手先が不器用で」
「わたしは風邪をひいておりまして」
誰ひとり、猫に近づく勇気がありません。
結局、鈴をつけに行く者は見つかりませんでした。名案も、実行できなければただの絵空事です。
年寄りの白ねずみがゆっくりと言いました。
「よい考えを思いつくのは大事なことだ。けれど、それをやり遂げるのは、もっと大事なことだよ」
ねずみたちはしょんぼりとうなずきました。けれど、諦めたわけではありません。みんなで知恵を絞って、猫が眠っている隙にこっそり食べ物を運ぶ作戦を考えました。見張り役を決めて、交代で台所を見張ります。
完璧な作戦ではないけれど、みんなで力を合わせれば、なんとかなるものです。
夜が更けて、天井裏はだんだん静かになっていきました。ねずみたちは身を寄せ合って、温かい藁の中で眠ります。月の光が窓から差し込んで、天井裏をほんのりと照らしていました。