むかし、あるところに、おじいさんが住んでおりました。
おじいさんは毎日、山で柴を刈って暮らしています。朝早くに家を出て、暗くなる前に帰ってくる。つつましい暮らしです。
ある冬の日のこと。おじいさんが山で柴を刈っていると、日が暮れて雪が降り始めました。
「これは困った。道がわからなくなってしまった」
おじいさんが途方に暮れていると、遠くからにぎやかな声が聞こえてきます。
声をたどって歩いていくと、雪の積もった広場で、猿たちが集まって宴を開いていました。焚き火を囲んで、歌ったり踊ったりしています。
猿たちはおじいさんを見つけると、手招きしました。
「じいさま、じいさま。寒いだろう。こっちへ来て温まりなさい」
おじいさんは焚き火のそばに座って、猿たちが持ってきてくれたお芋を食べました。ほくほくと温かくて、体がじんわりと温まります。
猿たちが踊りを見せてくれます。手を叩いて、足を踏み鳴らして。おじいさんもつられて手拍子を打ちました。
「じいさまもおもしろいな。明日もまた来てくれよ」
おじいさんはうれしくなって、次の日もまた山へ行きました。猿たちはまた歓迎してくれます。
三日目のこと。猿の親分が言いました。
「じいさま。明日の朝、山道にお地蔵さまが立っているだろう。そのお地蔵さまに手を合わせて、ひとつだけ願い事をするといい」
次の朝。おじいさんが山道を歩いていくと、雪をかぶったお地蔵さまが静かに立っていました。赤い前掛けをした、小さなお地蔵さまです。
おじいさんはお地蔵さまの雪をそっと払って、手を合わせました。
「お地蔵さま。ばあさんに温かい着物を一枚、お願いします」
すると、お地蔵さまの足元の雪がぽかりと溶けて、中から美しい着物が出てきました。深い藍色の、ぬくもりのある着物です。
おじいさんは大喜びで家に帰りました。
「ばあさん、これをおまえに」
おばあさんが着物を羽織ると、体がぽかぽかと温まります。
「まあ、なんて温かい着物だろう」
おばあさんはうれしくて、ほろりと涙をこぼしました。
この話を聞いた隣のおじいさんが、欲を出して山へ行きました。猿たちのところで大きな顔をして座り、お地蔵さまにはあれもこれもと願い事をします。
けれど、お地蔵さまは何も出してくれませんでした。隣のおじいさんは手ぶらで帰っていきます。
最初のおじいさんとおばあさんは、その冬をぬくぬくと過ごしました。囲炉裏の火がぱちぱちと燃えて、お芋がことこと煮えています。
「ありがたいことだね」
ふたりは縁側から外を眺めました。雪がしんしんと降り続いて、庭も山も真っ白に染まっています。
遠くの山で、猿たちの歌声がかすかに聞こえてくるようでした。雪の夜が、やさしく静まりかえっています。