むかし、あるところに、貧しい若者が住んでおりました。
ある晩、若者はとても不思議な夢を見ました。西の山に沈む夕日の光が、一本の大きな木を金色に照らしている夢です。木の根元には何かが光っています。
「きれいな夢だったなあ」
目が覚めた若者は、町へ出かけていきました。お腹がすいていたので、団子屋の前で立ち止まります。甘い匂いがふわりと漂って、お腹がぐうと鳴りました。
団子屋の主人が声をかけてきます。
「にいさん、いい夢を見ていないかい。いい夢があったら、買い取るよ」
「夢を買うのですか」
「ああ。よい夢にはよい運が宿っているからね」
若者はゆうべの夢を話しました。西の山の夕日と、金色に光る木のこと。
団子屋の主人は目を輝かせて、銀の小粒を三つ差し出しました。
「それは上等な夢だ。この銀と取り替えよう」
若者は銀を受け取って、あったかい団子を頬張りました。みたらしの甘辛いたれが口の中に広がって、幸せな気持ちになります。
さて、団子屋の主人は店をたたんで、西の山へ向かいました。山道をえっちらおっちら登っていきます。途中で湧き水を飲んで、野いちごを食べて。汗を拭きながら歩いていくと、やがて見晴らしのよい中腹に出ました。
そこに一本の大きな楠が立っています。幹は太くてどっしりとしていて、枝が空いっぱいに広がっていました。ちょうど夕暮れどきで、夕日がその木を金色に染めています。夢の景色そのままでした。
主人は根元を掘り始めました。ざくっ、ざくっと土を掘ると、やがてごつりと固いものに当たります。出てきたのは古い壺です。中にはぎっしりと金の粒が詰まっていました。
団子屋の主人はたちまち大金持ちになりました。人々は「夢買い長者」と呼びます。
けれど、主人は欲張りではありませんでした。金の半分を持って、あの若者を探しに行ったのです。
「にいさん。おまえさんの夢のおかげで宝が見つかった。これは半分、おまえさんのものだ」
若者はびっくりして目を丸くしました。
「そんな。夢はもう売ったものですから」
「いいや。夢を見たのはおまえさんだ。分けるのが当然だよ」
ふたりは縁側に並んで座りました。夕日が山の向こうに沈んでいきます。あの夢で見たのと同じ、金色の光です。
「いい夢だったなあ」
若者がつぶやくと、団子屋の主人もにっこり笑いました。
空がだいだい色から薄紫に変わっていきます。一番星がぽつりと灯って、遠くのほうで、ひぐらしの声がカナカナと響いていました。