むかし、あるところに、ごんべえという男が住んでおりました。
ごんべえはかも取りの名人です。毎朝早くに沼へ出かけて、かもを捕まえてきては町で売っていました。
ある冬の朝のこと。いつものように沼へ行くと、かもがたくさん水の上に浮かんでいます。
「よしよし、今日はたくさん捕れそうだ」
ごんべえはそうっと近づいて、一羽、また一羽と足に縄をかけていきました。するすると上手に結んで、全部で二十羽。
「さあ、帰るとしよう」
ところが、縄を引いた拍子に、かもたちが一斉にバタバタと羽ばたきました。
二十羽のかもが空に飛び立ちます。ごんべえは縄を握ったまま、ふわりと体が浮き上がりました。
「わわわ、離せ。いや離すな。離したら落ちる」
ごんべえは空の上です。かもたちに引っ張られて、ぐんぐんと空高く昇っていきます。
下を見ると、沼がどんどん小さくなって、やがて村が見えてきました。屋根の上から煙がもくもくと立ちのぼっています。畑も田んぼも、まるで布のつぎはぎのように見えます。
「おお、こりゃあすごい」
怖いのも忘れて、ごんべえは景色に見とれました。冬の空気は冷たいけれど、お日さまの光がぽかぽかと温かい。
かもたちは山を越え、川を越え、どんどん飛んでいきます。白い雲が手の届きそうなところをふわふわと流れていました。
「なあ、かもさんたち。そろそろ降ろしてくれないか」
かもたちは知らん顔で飛び続けます。
やがて、眼下に大きな町が見えてきました。かもたちはゆるやかに高度を下げて、お殿様の屋敷の庭にある池に向かって降りていきます。
バシャン。かもたちが池に着水して、ごんべえはざぶんと池に落っこちました。
「なんだなんだ、空から人が降ってきたぞ」
お殿様の家来たちが大騒ぎです。びしょぬれのごんべえがずるずると池から上がると、お殿様がやってきました。
「おまえ、空を飛んできたのか。それはおもしろい」
お殿様は大笑いして、ごんべえに温かい着物とごちそうを用意してくれました。ごんべえはほかほかのうどんをすすりながら、空の旅の話をします。
「雲がこんなに近くに見えましてな」
「山のてっぺんが、下に見えましてな」
お殿様も家来たちも、目を丸くして聞き入りました。
次の日、お殿様は馬を一頭貸してくれて、ごんべえは無事に村へ帰ることができました。
村に帰ったごんべえは縁側に座って、空を見上げます。かもたちが遠くの空をゆうゆうと飛んでいくのが見えました。
夕日が山の端に沈んで、空がだいだい色から藍色に変わっていきます。最初の星がぽつりと灯りました。
ごんべえはふうっと息をついて、にっこり笑いました。冬の風がそっと頬をなでて、遠くの山から、ふくろうの声がほうほうと聞こえていました。