むかし、あるお寺に、小さなこぞうさんが住んでおりました。
ある秋の日、こぞうさんはおしょうさんに言いました。
「山へ栗拾いに行ってもいいですか」
おしょうさんはうなずいて、三枚のお札を渡しました。
「困ったときに使いなさい。ただし、暗くなる前に帰ってくるんだよ」
こぞうさんは元気よく山へ出かけていきました。
山の栗はつやつやと光っていて、拾うのが楽しくてたまりません。夢中になって拾っているうちに、あたりはすっかり暗くなってしまいました。
「しまった。帰り道がわからない」
こぞうさんが困っていると、向こうから明かりが見えました。小さな小屋です。
「もしもし。道に迷いました。一晩泊めていただけませんか」
戸を開けたのは、にこにこと笑ったおばあさんでした。
「まあまあ、かわいそうに。さあお入り」
おばあさんはあったかいお芋をふかして食べさせてくれました。こぞうさんはお腹がいっぱいになって、ふかふかの布団にもぐりこみます。
うとうとしかけたとき、隣の部屋からがりがりと不思議な音が聞こえてきました。覗いてみると、おばあさんの姿がぐにゃりと変わって、大きな山姥になっているではありませんか。
こぞうさんはぶるっと震えました。
「お手洗いに行きたいです」
こぞうさんはそう言って、裏口からそっと抜け出しました。そして暗い山道を、一目散に走ります。
どしん、どしん。後ろから山姥が追いかけてきます。
こぞうさんは一枚目のお札を投げました。お札はたちまち大きな川になって、山姥の前に広がります。
ざぶざぶと水を渡る山姥の気配がします。こぞうさんはさらに走りました。
二枚目のお札を投げると、お札はもうもうと燃える火の山になりました。山姥は足踏みしながら、それでも越えてきます。
最後の三枚目のお札を投げると、どろどろの泥沼が現れて、山姥はずぶずぶと足をとられました。
「まてえ、まてえ」
こぞうさんはやっとの思いでお寺に飛び込みました。
「おしょうさま、助けてください」
おしょうさんは静かにうなずいて、お寺の門の前に立ちました。
泥だらけの山姥が追いついてきます。
「そのこぞうを渡しなさい」
おしょうさんは少しも慌てずに言いました。
「おまえさんは変化が得意だと聞いた。大きなものに化けられるか」
山姥は得意になって、ぐんぐんと体を大きくしました。お寺の屋根よりも大きくなります。
「では、小さなものにはなれるかな。たとえば、豆粒ほどに」
山姥はしゅるしゅると縮んで、とうとう小さな豆粒になりました。おしょうさんはぱくりとそれを飲み込んでしまいました。
それきり、山姥はいなくなりました。
「こぞうや。約束は守らなければいけないよ。暗くなる前に帰ると言っただろう」
「はい。もう夢中になりすぎません」
こぞうさんはぺこりと頭を下げました。
秋の夜風がさわりと吹いて、お寺の鐘がごおんと静かに鳴りました。虫の声がりんりんと響いて、空にはまるい月が昇っています。
こぞうさんは温かい布団にもぐりこんで、すうすうと寝息を立て始めました。拾った栗が、枕元に転がっています。