むかし、あるところに、おしゃれが大好きな王様がおりました。
毎日毎日、新しい服を作らせては、鏡の前でくるくると回っています。金糸の刺繍がついたマント、宝石のボタンがついた上着、絹のズボンに銀の靴。
「もっと素敵な服はないかのう」
ある日のこと。国に二人の仕立て屋がやってきました。
「王様、わたしたちは世界一の布を織ることができます。その布は、愚か者には見えない、不思議な布です」
王様は目を輝かせました。
「おお、それはすばらしい。さっそく作ってくれ」
王様はたくさんの金貨を渡しました。二人の仕立て屋は、大きな機織り機を据えて、せっせと仕事を始めました。カタンコトン、カタンコトン。朝から晩まで、機織り機の音が響いています。
けれど実は、機織り機の上には何もありません。二人はただ、空っぽの機織り機を動かしているだけだったのです。
王様は大臣を様子見に行かせました。大臣は機織り機を見て、ぎょっとしました。何も見えません。
「わたしは愚か者なのか」
大臣はそう思われるのが怖くて、にっこり笑いました。
「おお、なんと美しい布でしょう」
別の家来も見に行きましたが、やはり何も見えません。けれど、やっぱり正直には言えませんでした。
「すばらしい色合いですな」
やがて服が「できあがった」と聞いて、王様自身が見に行きました。
二人の仕立て屋が、何もない両手をひろげます。
「王様、こちらが上着でございます。こちらがマント。こちらがズボンでございます」
王様の目には、何も見えません。でも、愚か者だと思われたくないので、大きくうなずきました。
「うむ、うむ。これはすばらしい」
王様は「新しい服」を着て、町をパレードすることにしました。
町の人々が道に並んで、王様を見守ります。みんな目をぱちくりさせていましたが、誰も本当のことを言いません。
「まあ、素敵なお召し物」
「さすが王様。お似合いですわ」
そのとき、人ごみの中から、小さな子どもの声がしました。
「ねえ、王様、何も着てないよ」
あたりがしんと静まりました。
「……何も着てないよ」
子どもがもう一度、くりかえしました。お母さんがあわてて口をふさごうとしましたが、もう遅い。
「ほんとだ。何も着てない」
「そうだ、そうだ。何も見えないぞ」
町の人たちが次々に声を上げ始めました。
王様は顔を真っ赤にしました。けれど、パレードの途中で逃げるわけにもいきません。胸を張って、堂々と歩き続けました。
お城に帰ると、王様は大きなため息をつきました。
「わしが一番の愚か者だったか」
あの子どもの声が、まだ耳に残っています。正直に言ってくれたのは、あの子だけでした。
次の日、王様はあの子どもをお城に招きました。
「おまえは正直でいてくれた。ありがとう」
子どもはにこっと笑いました。
「だって、ほんとうのことだもん」
王様もつい笑ってしまいました。窓の外では、春の風がそよそよと吹いて、お城の庭の花が揺れています。
その日から王様は、見た目の立派さよりも大事なものがあることを、少しずつ知っていくのでした。大切なのは、本当のことを言える勇気と、それを受け止められるやさしさなのだと。