むかし、むかし、あるところに、王様と王妃がおりました。
長い間、子どもに恵まれませんでしたが、やがて可愛らしい女の子が生まれました。王様は「オーロラ」と名付け、王妃はその小さな頭をそっとなでました。
お祝いの席に、国中から良い妖精たちが集まります。ひとりは美しさを、ひとりは優しい心を、ひとりは歌声を。妖精たちはオーロラに、たくさんの贈り物をしました。
けれど、お祝いの途中で、城の扉がぎぎいと開きました。
招かれなかった妖精が、暗い顔をして立っています。
「わたしを招きませんでしたね」
冷たい声が、広間に響きます。
「この子は十六歳の誕生日に、紡ぎ車の針で指を刺して、長い長い眠りに落ちるでしょう」
王様と王妃は顔を青くしました。けれど、最後のひとりの妖精が静かに立ち上がりました。
「呪いを消すことはできません。でも、ひとつだけ希望を」
「まことの愛が、この子を目覚めさせるでしょう」
王様は国中の紡ぎ車を焼き払いました。
そしてオーロラは、たくさんの愛に包まれながら、すくすくと育っていきます。城の庭で蝶を追いかけ、花の名前を覚え、小鳥と歌いました。王妃は毎晩、オーロラの髪をやさしくとかしてやりました。
月日は流れ、十六年が過ぎました。
オーロラは、春の花のように美しい娘になっていました。笑うと周りの空気までやわらかくなるような、そんな娘です。
十六歳の誕生日の日、オーロラは城の奥にある古い塔を見つけました。石の階段をのぼっていくと、小さな部屋に一台の紡ぎ車が置いてあります。
「まあ、なにかしら」
オーロラが手を伸ばした、そのとき。指先にちくりと痛みが走りました。
オーロラの瞳がゆっくりと閉じていきます。体がふわりと床に倒れました。
城全体が、同じ瞬間に眠りに包まれました。王様も、王妃も、兵士も、料理番も。庭の噴水さえ、水を止めました。暖炉の炎もそのままの形で止まり、テーブルの上の湯気さえ、空中で静かに眠っています。
城の周りには茨が生い茂り、緑の壁となって、すべてをそっと覆い隠していきます。
百年の時が、しずかに、しずかに過ぎていきました。春が百度訪れ、百度去りました。
ある春の朝のことです。
遠い国から一人の王子が、白い馬に乗ってやってきました。茨の垣根の前に立つと、不思議なことに、茨がひとりでに道を開いていきます。かわりに、小さな花が次々と咲き出しました。
王子は花の道を進み、静まり返った城に足を踏み入れます。広間では兵士たちが槍を持ったまま眠り、厨房では料理番がスプーンを握ったまま眠っていました。
塔の階段をのぼっていくと、一番上の小さな部屋に、美しい娘が眠っていました。
百年経ってもなお、春の花のように美しいままです。
王子の胸に、温かい気持ちがこみ上げてきました。この人を守りたいという、静かで深い気持ちです。
王子はそっと、オーロラの額に口づけをしました。
すると、オーロラのまぶたがゆっくりと持ち上がります。
城全体が、目を覚ましました。王様があくびをし、王妃がほほえみ、噴水がふたたび水を噴き上げます。
窓の外には、百年ぶりの春が広がっていました。桜が咲き、すみれが咲き、光があふれています。
オーロラと王子は、城の窓から並んで春の景色を眺めました。やわらかな風が、二人の髪をそっと揺らします。
オーロラと王子は、その春の光の中で、静かに手を握りました。
やがて夜が来て、月が昇りました。城の石壁を、銀色の光がやさしく照らしています。
庭には百年分の花が一度に咲いて、甘い香りが夜風に乗って漂ってきます。
どこかで、ふくろうが低い声で歌っていました。